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第66巻第1号(2026年1月)

〔講演〕日本政治の地殻変動と政権の行方

飯尾潤(政策研究大学院大学教授)

御紹介いただきました飯尾でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

最初にこの講演を依頼されたのは夏でありまして、当時の状況から、演題に「石破政権」と入れるのは危ないと思い、入れませんでした。そして、秋に高市政権が誕生し、ちょうど公明党との間でごたごたしていた頃、正式に演題を決めることになったのですが、そこでもやはり、「高市政権」と入れて、暮れに何かあったら困ると考えまして、結局、「日本政治の地殻変動と政権の行方」という演題にいたしました。

政治評論家の方であれば、「昨日、高市さんと電話をしたときにこんなことを言っていた」という話をされるのかもしれませんが、私は学者ですので、そういうビビッドな話はありません。また、世論調査などに基づき世の中の動向についてお話しされる方もいらっしゃるかと思いますが、私は学者でも理屈を考える方です。そこで本日は、最近、日本の政治が不安定化しているように見える背景にあるのは何か、そして、高市政権の特徴と今後の行方といったことを織り交ぜながらお話ししたいと思います。

(1)好スタートの高市早苗内閣(図表1)

図表1

図表1

いつもは政権の片棒を担ぐような政治評論家の皆さんが珍しく「危ない」と口をそろえ、最初は不安に思えた高市内閣ですが、支持率は極めて高く、好スタートを切ったかのように見えます。

実は私は、自民党総裁選の投票日の数日前から、高市さんになる可能性は半々ではないかと見ていました。これは少数派だったと思います。しかし、最有力とみなされていた小泉さんの受け答えの不安定さを見て、一般の自民党員の皆さんがこのまま「小泉」と書くだろうか。また、今の世の中、党員票トップをひっくり返すのは難しい。さらには、コメ政策で石破さんに不満を持っていたJAなど業界団体に対して、高市陣営はかなり一生懸命やっていた。こうしたことから、高市さんになる可能性もあるのではないかと思ったわけです。政治評論家の皆さんは好き・嫌いで判断したりしますが、私は学者ですので、そこは関係ありません。

ちなみに、同じような構えで準備していたと見られるのが財務省の皆さんです。もちろん、彼らには他に思惑があったと思います。あちこちに行って「高市さんだ」と言いふらすのは、万が一、関係の悪い高市さんが当選したときに備えているのだと私は認識していましたが、読み筋としては一致しており、実際、高市さんに決まりました。

ところが、思ってもみなかったのは連立組替えです。公明党というよりは、創価学会の幹部が高市さんに大きな不満を持っており、「高市は絶対だめだ」と言っているのを知っていましたので、高市さんになったらぎくしゃくするだろうとは思っていました。とはいえ、何だかんだ言っても自民党は「まあ、まあ」とやるのが得意ですから、公明党の要求をのんで連立を続けると私は予想していたわけです。

しかし、公明党はやり方があまりにも下手でした。連立離脱をちらつかせたら慌てて寄ってくるだろうと思っていたのに、「それじゃ、結構です」と言われてしまった。政界において、力は衰えたりといえども一定の票を必ずくれる関係を切るのは、損得勘定で考えたらあり得ないことです。公明党と維新の会が悪いといっても、それは幾つかの小選挙区だけですから、両立させることは可能です。したがって、公明党に加えて維新が乗ると私は思っていました。ところが、維新と小泉さんがいくらか詰めていた政策を持ち出せば何とかなるということで、高市さんは、公明党を切って維新との連立に組み替えた。このあたりはかなり鮮やかでした。

自民党と維新との連立の交渉について、私が実際に聞いたところでは、キーパーソンは木原さんで、彼が維新の若手と話をしたり、あるいは、小泉さんと維新で詰めていたものがあるだろうということで、直接その項目を見たりしながら、木原さんと高市さんで話を進めていったようです。つまり、昔ながらの自民党風の根回しをしていたら、この組替えはできなかったということです。こんなふうに少数で話をまとめるのは、自民党の伝統にはないことです。ところが高市さんは、自民党らしくなく、自分で判断してしまいました。ほとんどの自民党議員は公明党を切ることを嫌がっています。したがって、相談する人がいれば、いろいろ言われてできなかったかもしれません。しかし、相談する人がいないので、できてしまったというわけです。

この様子を見て、自民党内からの不満が収まらないのではないかと思いましたが、高市政権にとっては、逆にそれがよかったと言えます。とりわけ若者は、変わらない日本政治にうんざりし、出口がない閉塞感を感じています。そんな中、初の女性総理が誕生し、長年連立を組んできた公明党を切って維新を入れた。つまり、見かけも変わり、連立の中身も変わり、よく分からないけれども何か変えてくれるのではないかということで支持率が上がったわけです。高市政権に対する期待は大きく、今まで上がらなかった支持率が上がったとなれば、高市さんに文句を言ってもいいことはありませんし、一度切れてしまった公明党を今から戻すのは大変です。そのため自民党の皆さんは、いまだに模様眺めを続けています。まさに、これまで見たことがない政権の姿です。

しかも、けがの功名と言ってはなんですが、普通ならもっと前に発足していたはずの政権が、このごたごたのせいで外交日程ぎりぎりに発足し、とにかく外交が先という形になりました。高市さんは、昔アメリカにいたことに加え、元キャスターなのでつかみがうまく、プレゼンテーションも得意です。そういう彼女のいいところが出て、トランプ大統領とも何とかうまくやっているように見えます。もちろんこれから難題が待ち受けていますが、とりあえずテレビに映る段階では身のこなしがよく、リーダーの存在を印象づけました。

残念ながら石破さんは全く逆で、もっともなことを言っているのに、いざ人前に立つと見栄えをよくできない人でした。それでもいいと開き直っているのは偉いとも言えますが、トップリーダーになったらそれでは通用しません。石破政権の1年間、みんなが不満を感じていたところに高市政権が誕生したということで、ここでも変化がありました。人々が求めているのは「変化」と「リーダーシップ」です。この組合せでも、高市政権はそれなりにいいというわけです。

さらに、はっきりしたメッセージの発信も好スタートの一因です。物が分かれば分かるほど、はっきりしたことを言いにくいのが今の世の中ですが、自分が分かったことしか言わないというのが高市さんのスタイルです。玉を出せと言って、数少ない側近や官僚から出てきたものを一生懸命読み、頭に入りにくいものは赤ペンを入れて自分の言葉に直し、話すときは関西弁にするなど、いろいろ努力しています。だから準備に時間がかかるのですが、日本全体がどうなるかというのではなく、自分として施策が打てるものは何かということに徹しているので、メッセージが非常に明快です。ただ、独特の理解の仕方で、これがいいかどうかは立場によって評価が分かれるかもしれませんが、よくやっているという声も多く、今のところは成功していると言えます。この点でも、かつての自民党になかった政権であることは確かです。

(2)高市内閣の構造と前途(図表2)

図表2

図表2

専門家の話を基に世論調査の結果を分析すると、高市政権の支持層は、はっきり言って寄せ集めです。中でも有力なのは、新たに獲得した若者の支持です。SNSなどを通じて、今まで自民党を支持したことなどない若者が急に高市政権を支持し、それが支持率をかなりかさ上げしています。そのほか、よく分からないけれども自民党支持、あるいは、女性だから支持するという人もいます。つまり、向いている方向がバラバラの支持層が合体しているということです。安倍さんを支持した岩盤保守層もいくらかは支持してくれていますが、だからといって、石破さんのときに離れたその人たちが戻ってきたわけではありません。もちろん、岩盤保守層と見られる人たちの中には自民党支持に戻った人もいます。しかし一方では、おもしろいことに、高市政権は支持するものの、政党としては日本保守党や参政党支持という人たちもおり、もはや安倍政権の頃の自民党に戻ることはないというのが現状です。

そこを勘違いして岩盤保守層にアピールした場合、心配されるのは、どうせ中国との仲は悪いからと、暮れに靖国神社を参拝することです。側近の中には、「靖国神社を参拝して解散総選挙をすれば勝てる。中国との関係改善には時間がかかるから、今、解散総選挙をやってしまえ」と言う人もいるようです。しかし、アメリカとの関係をよくするためには韓国とうまくいくことが必須であり、靖国参拝をしたら韓国の反発を招きます。したがって、このあたりはバランスを取らなければいけません。

政権の安定性という点では、今から考えると、公明党との連立は非常に楽なものでした。一度合意してしまえば、公明党は少々のことがあっても何とか折り合いを付けてくれましたが、維新はそんな党ではありません。くっついてもよし、いざとなったら離れてもよしです。また、維新は政党として終わりが見えてきており、いずれは自民党入りしてもいいという人が大勢います。もともと大阪自民党で、その改革派が維新になっているからです。今回の連立では、大阪以外の所は捨てたのも同然ということで、東京などの議員は、参政党や国民民主党の所へ行って「おまえのところに入れないか」と言っているようです。ところが、国会議員でない党首の吉村さんは「筋を通す」と言っています。2~3日で考えた一丁目一番地が筋だと言われても驚くばかりですが、こういう状況では何を言い出すか分からない怖さがあり、それに振り回されてしまう。結局のところ、維新の会の意思決定構造は極めて不安定です。

例えば定数削減法案、これはけしからん法案です。自民党の議席が3分の2以上あるときでも、定数削減に手を付けるときには、共産党も含めて各党で大体の合意があり、「まあ、しょうがないな」という雰囲気を作ってからやるものです。ところが、自民党内でも「これはたまらん」という声があるのに、数が足りなくなったら大変だということで押し切ってしまいました。しかも、法案を出した本人は「法案を出すところまでが俺の仕事」と言って、受け取ったほうは途方に暮れるばかりです。こんな調子ですから、暮れまでに維新が連立離脱を言い出すのではないかと振り回される。そして自民党からは、自分はもう生き残れないと思った人たちが造反する可能性がありますが、それを処分することもできないのではないかと思います。

ちなみに、この前出てきた小選挙区と比例代表に削減幅を配分するという案は、今の幹部が困らないように作ってあるだけです。それでは世の中通るまいと思うのですが、連立を続ける限り、毎月とは言わないまでも、季節ごとにこういうことが起きるでしょう。

そして、弱い党内基盤です。これについては、派閥がなくなったからだと言われますが、そもそも基盤を作っていないというのが高市さんの政治スタイルです。応援した麻生派の皆さんも、単に冷や飯を食わされたくないだけで、党幹部と閣僚のポジションをそれなりに取ってしまったら目的達成という感じです。

高市さんほど自民党らしくない人はいません。石破さんはいろんな政治家と会食をしていましたが、お酒を飲むのが目的で、相手との人間関係をきちんと作れないのが問題でした。ところが高市さんは、総理就任以来、まだ一回しか自民党の幹部と会食していません。こういうスタイルを長年取っているということは、高市さんと話をした経験のある人が自民党内にあまりいないことを意味します。しかも、官房長官を初め数少ない側近の方々も、人脈づくりが得意なようには見えません。そのかわりをしてくれるのは萩生田さんだと言われますが、萩生田さんだけが動いて高市政権が安定するかというと、なかなか難しい。つまり、党をまとめる仕組みも人も不在だということです。

鈴木幹事長は立派な方で、定数削減法案をまとめるときには幹事長の一言が効いたと言われていますが、本来それは総務会長の仕事です。むしろ幹事長がしなければいけないのは、「定数削減で自分は生き残れない」と言っている人たちのところに出かけていって何とかしてあげることです。しかし、そんな様子は全くありません。どうやら選対委員長もそういうことはしていないようで、噂によると、それぞれの選挙区の事情さえあまり御存じないようです。

高市政権の支持率とともに自民党の支持率も少し上がってきたとはいえ、解散総選挙になったら、勝てるかどうかは怪しいものです。しかも、選挙区にてこ入れしなければいけないにもかかわらず、それができそうな人が党幹部にほとんどいない。そんな中での選挙は、これまでやったことがありません。したがって、こういうところばかり見ている政治評論家は、高市政権はすぐに行き詰まると思うわけです。しかし、私は中立的な立場です。もしこの状況で勝てたら新しい勝ち筋だということで、半分冷やかしで、新しい党の仕組みを作ったら偉いものだと『週刊東洋経済』に書きました。これが現状です。

さらにもう一つ、ここにおられる皆さんの中には、財政出動をやってくれたら上がる株もあるとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、国民の生活実感が上がらないのに、選挙をして勝とうというのは無理な話です。バイデンが負けたのも、今、トランプ大統領の支持率が下がっているのも、生活実感が悪くなっているからです。個人が株式の17%程度しか持っていない日本では、株価が上がり、百貨店の高額商品が売れるといっても、それは特定の富裕層の話です。安倍さんはそのあたりをよく分かっており、自分のやりたいことを実現するために、普通の人たちに働きかけることを徹底していました。

しかし高市さんは、単にアベノミクスをまねているだけです。言うまでもなく、アベノミクスの当時はデフレで、今はインフレの時代ですから、必要とされる政策が全く違うにもかかわらず、高市さんのおっしゃっていることを聞くと、どうやらアベノミクスがよかったと思っておられるようです。そして、ごく少数のエコノミストを重用し、「財政赤字が多ければ多いほど国民は幸せになる」と言われても、今の世の中で財政出動を行ったらインフレが加速するだけではないでしょうか。ある政治家はテレビで、「インフレで国民が困っている。モノが売れなくて商店も困っている。だから財政出動で消費を刺激する」と言っていました。消費を刺激したらインフレになってさらに困ることくらい、大学を出ていたら分かりそうなものですが、そう思わない方もおられるようです。これは日本にとって深刻な事態でありまして、一番心配なのは、インフレに打つ手がない状況になりはしないかということです。今はまだ起きていませんが、いざやってみたらトラス・ショックの二の舞になるかもしれません。

はっきり言って、補正予算も無理筋です。ただ、私は、補正予算を出しても実際に執行できず、結果オーライという可能性もあると思っています。去年の国の決算を確認すると、あれだけ補正を積んだにもかかわらず国債発行高は減っています。なぜなら税収が上がったからです。公共事業も1年では執行できず、会計検査院の報告によると、人手不足のせいで、2年前に予算計上されたのにまだできていない工事が全国には山ほどあります。嘘の予算をたくさん積んでいるような感じですが、財務省が嫌々認めているのは、決算まで行けばそんなに大したことはないということなのかもしれません。

もちろん、本気でお金を配るとなったらそれなりに行きますが、その場合の問題は、自治体にお金を配る能力がなくなってきていることです。自治体から「お金を配るのはやめてくれ」と言われ、しょうがないので「おコメ券」と言ったら、それも嫌ということで、予算を積んでもお金が配れない事態に日本の行政は立ち至っています。市町村の状況は本当に深刻です。

このような状況の中、公明党の自民党への選挙協力はどうなるのか。長年、個人レベルで関係があるので、急に手のひら返しはできません。とはいえ、平気で公明党を批判する人たちに対しても行ってきた選挙協力は、さすがにもうしないでしょう。公明党が実際にどのような選択をするのか、引き続き見ていかなければいけませんが、政権に戻りたいというのが彼らの本音です。しかし、高市政権ではだめですから、選挙によって倒閣ということも考えられます。そう腹を決めた場合は、単に選挙協力しないだけでなく、自民党の対立候補に肩入れする。これは行って来いになるので、小選挙区ではかなり効きます。公明党は今、そうやって脅かしていこうと考えている最中ではないかと思います。

ただ、人間ですから、人情というものがあります。今までぼろくそ言っていたところに急に票を入れろと言われても、創価学会の皆さんがそのとおりにするかどうかは分かりません。そこで重要になるのが選挙の時期です。1年後になると向こうの準備も整ってしまう、やるなら惰性の残っている今のほうがいいという話もありますが、このあたりの判断はなかなか難しいところです。

(3)日本政治の地殻変動(図表3)

図表3

図表3

去年の総選挙、今年の参議院選挙において、自民党だけでなく、野党も含めて既存政党が全て振るわなかったのは、政治家の皆さんが、日本政治の地殻変動に薄々気づきながらも、信じたくないと思っているからです。「そうかもしれないが、それでは自分はやっていけない」というのが彼らの言い分です。やっていけないのであれば、やっていく方法を考えるのがあるべき姿ですが、現実から目を背けています。私の予想では、去年の国民民主党、今年の参政党に続き、次の選挙ではまた別の新しい党が出てくるだろうと思います。メディアの人たちは一度起こったことに注目するので、今も国民民主党や参政党を追いかけていますが、あれはもう手垢がついていて、次の新しい党が出てくる。もうこういう時代に入っているのに、現実を認めようとしないわけです。

また、口幅ったいことを言えば、株価は、日本の経済を代表する指標としては、何分の一かの地位しか占めていないと考えざるを得ません。昔と違って企業と国民は一体ではなく、上場企業では、収益も労働者も外国が大半という会社がたくさん出てきています。この20年間、直接海外投資をさんざんやったのはそういうことです。そして、先ほど申し上げたように、個人は株を少ししか持っていません。こうした構造の中で、政治家は国民一般の感覚に沿った適正な行動をとらなければいけないわけですが、やはり皆さん、そこがずれていると思います。安倍さんは株価を非常に気にしていたので、高市さんも株価を気にしています。しかし今の時代、それだけでは選挙に勝てません。

経済格差の拡大によって経済状況(普通の人々の暮らし向き)が悪化しています。お金持ちで東京に土地を持っている。土地の値段が上がる。そういう人は株も持っているので、どんどん気が大きくなって高額商品を買う。この円安でも海外旅行は細るどころか、大手旅行会社の客単価はかなり上がっているそうです。お金持ちが旅行して、普通の人は旅行しなくなっているからです。経済格差は、放っておけば拡大し続けます。アメリカではトランプ大統領が、ヨーロッパではポピュリストが次々に出てきたのは、日本よりも先に経済格差が起こっていたからです。

アメリカ人は、デモクラシーの国で、決していいことではありませんが、大金持ちがさすがに賢く格差を悟られないようにする作戦をとりました。トランプという人を立て、経済格差には目を向けさせず、アイデンティティ・ポリティクスとか平等とか、みんなが同じようにしているのは違うという話に持っていき、逆に民主党は、アイデンティティ・ポリティクスでLGBTとか人種とか一生懸命やっている。しかし本当は、そんなことよりもっと大切なことがあります。それに気がついたのがビル・ゲイツです。「気候変動よりも生活の向上に焦点を当てるべき」と言って、気候変動関係の人たちをがっかりさせていますが、やはり人間、暮らしが一番大事です。

したがって、相対的価値剝奪ということから言うと、おもしろくなく思っている人たちをトランプ大統領は動員し、スポーツなどをやるところに出てきて、ほかの問題が大切だというふうに叫ぶと、何となくそれでウケる。しかし結局、トランプ政権下で暮らし向きがよくなるわけではないので、あれは持続可能性がないと私は思っています。ヨーロッパのほうが、まだ何とかしなければならないと思っていますが、政策的に打つ手がありません。何か手があれば誰かがやるのでしょうけれども、そう簡単ではありません。

さらには、日本でも自民党が絶対の存在ではなくなったということもあります。安倍政権は、民主党あってのものだったということははっきりしています。具合が悪くなると「悪夢のような民主党政権時代」というフレーズを繰り返し、聞いている方はみっともないと思いましたが、言われた本人たちは特に反論もしない。つまり、反射効果で勝っていたということです。そんな状況では民主党は選挙で負けるも当然です。希望の党騒動があったとき、小池さんがもう少し賢ければ政権をとれていたと思います。それほど自民党は不安定でした。しかし、安倍さんはその不安定さを骨身にしみて分かっていたので、非常に慎重に行動し、思い切ったことは全くしない。野党を敵に回せば票がとれるということで、一生懸命お芝居をしていました。そして、東京オリンピックや万博を開催すれば高度成長が戻るなんてことはないのに、国民に甘い夢を見させて支持を獲得する。そうやって長期政権を維持してきたわけです。

岸田さんまでは、もはや自民党は絶対の存在ではない、下手なことをすると負けるという怖さを分かっていました。それが、石破さん、高市さんになるにつれてだんだん分からなくなり、選挙に勝てなくなったということです。勝つためには、安倍政権の延長線ではなく、別のスタイルを見つける必要があります。今のところ、高市さんはイメージ的に成功していますが、これで票がとれるかどうかは別問題です。その証拠に、最近は首長選挙でも地方議員選挙でも、いかにも自民党という人は勝つのが難しくなってきました。特に市町村議員選挙では、議長経験者が落選し、新人がどんどん当選しています。古い政治自体が飽きられてしまっているのです。

ところが、自民党が安泰のように見えるのは、立憲民主党をはじめとする野党が相変わらずだめだからです。日本政治学会で聞いた若手の報告によると、立憲民主党が支持を獲得できないのは、民主党政権時代の悪いイメージが払拭できないから、そして、当時のリーダーがいるからというのが専門家の見立てです。私も同感です。しかも彼らは、生活のことをあまり訴えていません。もしも去年の総選挙で、立憲民主党が「物価が上がって皆さんお困りでしょう。これはアベノミクスのせいですよ。デフレを脱却してインフレになり、安倍さんの思うとおりの世の中になっていますが、皆さんの暮らしはどうですか。自民党で本当にいいんですか」と訴えていたら、勝てたと思います。しかし、そんなことを言う知恵もなく、自民党の批判ばかりしています。

また、数年前、ある政治学者が若者に、政党名を挙げて保守か革新か尋ねたところ、驚くべきことに、保守の側に立憲民主党や共産党、革新の側に自民党が入っていたそうです。「変える」と言っているのが自民党で、それに反対ばかりしているのが立憲民主党や共産党、こんな姿を見ていたら、何も知らない若者がそう思うのも当然です。閉塞感が強まっている今、これでは票をとろうと思ってもとれるわけがありません。

一方、去年の総選挙で国民民主党が伸びたのは、「手取りを増やす」という他の政党が思いつかなかったことを主張してイシュー・オーナーシップ(Issue Ownership:特定の政策領域における政党の信頼優位性)をとったからです。つまり、自民党に反対だけしていたら野党は勝てない、しかし、自民党が言っていないことを言って有権者に「なるほど」と思わせたら勝てるということです。また、今年の参議院選挙で伸びた参政党は、残念なことですが、みんなが何となく目障りだと思っていたところに外国人問題を提起しました。良識ある政治家は、そんな問題を出して大丈夫なのかと躊躇しますが、そう思わない人たちが出したところ、特に応援する政党を持たない層、そして、妙な話ですけれども自民党の保守層が反応しました。今回はたまたま勝っただけで、次はどの党がイシュー・オーナーシップをとれるかが問題ですが、いずれにしても、既存の野党は根本的に頭の構造を変えない限り勝つことはできません。

そんな中、人々の分断化は緩やかに進展しています。私は10年前から、「スマホを持っている世の中では必ず分断が起き、日本でもポピュリストが現れます」と言い続け、そのたびに反論を受けてきましたが、実際そのとおりになっています。ただ、少し遅れたのには二つの理由があります。

一つは、日本のマスコミに資本力があったからです。どういうことかといいますと、アメリカやヨーロッパの新聞は資本力が少ないため早くに潰れてしまい、新聞のない町が山ほどあります。それに対して日本の大手紙は資本力があり、きちんと取材をして裏取りしたニュースを報道し続けています。いわゆる編集メディアです。テレビやインターネットもそれを基盤に議論しているので、日本にはまだ国民共通のニュースが存在しています。しかし、アメリカやヨーロッパには国民共通のニュースがありません。特にアメリカでは、SNSに合わせてケーブルテレビが二極分化し、世論調査の結果を見ると、自分の娘・息子を支持政党の違う相手と結婚させるのは嫌だと答えた人の割合は6~7割にものぼります。もはや同じ国民とはみなしていないと言っても過言ではありません。ヨーロッパでも、仲のいい人たちとばかりつき合う、いわゆる「島宇宙化」が進んでいます。

もう一つは、ニュースに接する機会です。例えばYahoo!ニュースを見ている人は多いと思いますが、Yahoo!ニュースのトップ10は手で入れています。自動で機械に入れさせると、有名なインフルエンサーが食べ過ぎでお腹を壊したとか、そんな話題が上に出てしまうので、そうならないように必ず編集メディアからとり、五つは必ず普通のニュースが出るようにしています。放っておいたら、先日の地震の後、千島海溝沿いで大きな地震が発生する可能性が高まっているといったニュースは西日本では出ないのですが、それが出るようにしているので、日本ではまだまだスマホを見ている人がニュースに接しているわけです。しかし、アメリカは違います。Facebookなどで仲間の噂話だけを聞いてニュースに接する機会がなくなると、世界はどんどん分断されていきます。とはいえ、デジタル世代はなかなか賢く、スマホの情報は嘘も多いことを知っていて、あまり信じないという調査結果もあります。その点は救いですが、彼らもそれなりに見ているので、やはりいくらか分断しています。

また、おかしな言い方に聞こえるかもしれませんが、スマホに出てくる人は、彼らのところに来た人です。石破さんは若い頃、田中角栄さんに、「票の数は握手の数しか出ない。だから、靴底をすり減らして歩き回れ」と教えられたという話をよくしていました。確かにそのとおりです。ところが、今や握手の形は変わっています。お年寄りは相変わらず文字どおり握手をしていますが、若者にとっては、スマホの動画に出てくる人が握手をした人なのです。去年の総選挙で国民民主党が伸びたのは、玉木さんが動画を一生懸命配信し、それを見た若者が、玉木さんが握手をしに来てくれたと思って票を入れたからです。参政党の票が伸びたのも、おもしろい動画があったからです。

では、高市さんはどうかというと、高市さん自身というよりも、他の人が高市さんの姿を加工して動画を配信し、それを多くの人が見ているので、高市さんのファッションが注目されたり、バッグが急に売れたりしています。つまり、高市さんは今、握手をしている状態なので支持率が稼げるというわけです。しかし、状況は不安定で、数か月で変わります。この先どうなるかは分かりません。ですから政治家の皆さんは、もっと安定して仲間をつくらなければいけません。そのためには、動画に少し映るというのではなく、主体的にネットワーキングをして自分のメディアをつくっていく必要がありますが、さっぱりそういうことをしない。これでは一般の有権者はますます政治から疎外されます。

ところがその一方で、政治への突然の参入も起こっています。賃金を上げるといっても、一部の大企業を除けば難しく、この秋も実質賃金は下がり続けていて生活が苦しい。そして、小泉政権下で導入されたマクロスライドにより、インフレ額の半分ぐらいしか年金を受け取れないように設計されているため、年金の実質額はどんどん減っていく。こういう状況の中、若者も高齢者も不満が募り、何かおかしいという空気が世の中にあふれ、政治に物を言いたいという機運が高まりつつあります。これまで下がる一方だった投票率にこのところ持ち直しの傾向が見られるのは、若者も高齢者も、何でもいいからとにかく投票に行かなければだめだと思い始めているからです。

(4)日本の社会構造変化(図表4)

図表4

図表4

こうした日本政治の地殻変動の背景には、日本社会の構造変化があります。先ほどスマホの話をしましたが、もっと重要なのは、会社人間がいなくなり、従来型の全人的人間関係が徐々に衰退してきたことです。会社で忘年会もしない、社員旅行も行かない、飲み会に誘ったらパワハラだと言われる。また、家族といっても、スマホでつながっているだけで会話はない。こういう世の中では、国民共同体は融解し、島宇宙化が進みます。

さらには、相対的価値剝奪によるルサンチマンの蓄積です。政治の世界で重要なのは、一番困っている人が声を上げるわけではないということです。そういう人たちは、政治に対して声を上げるゆとりも能力もありません。これまで自分は普通だと思っていた人たちが普通の生活ができなくなったとき、政治に向かうのです。一生懸命働いているのに毎月もらう給料では今まで買えたものが買えない、年金で悠々自適にやってきたけれども急に暮らしが苦しくなってきた、こういう状況が起こり始めて既に数年がたちます。Jカーブ理論で、相対的価値剝奪によるルサンチマンはしばらくたまってから爆発します。それが去年あたりから少しずつ出始めてきました。

加えて、自らが選択するという意識の高まりです。スマホで簡単に商品選択ができる時代、政治においても、その都度よさそうな人を選ぶという投票行動が増えています。昔は「無党派層」と言っていましたが、今は「自民党支持」と言いながら参政党に投票したりしています。そして、閉塞感打破への期待もどんどん大きくなっています。

(5)政界常識が有権者から乖離(図表5)

図表5

図表5

このように爆発する準備ができているにもかかわらず、政界の皆さんはというと、「昭和の時代を知りたかったら政治家と会えばいい」というぐらい、高市さんを除いては、相変わらず飲み会ばかりしています。政界の中心は、まさに人間関係最優先(理屈抜き)です。そして、飲み会の翌日には秘書たちが贈り物を持っていきます。これも普通の社会ではないことですが、人間関係最優先ですから、御機嫌取りをしなければいけないわけです。

しかも、SNSで見ているのは支持者と政治家仲間ばかりです。世間がどんどん狭くなり、選挙に負ける。でも、本人は負けた理由が分かりません。その上、国民をばかにして、対策をとれば、つまり、「去年よりも多い20兆円の補正予算を組みました」とか言えば、支持が調達できると思い込んでいる。でも、国民は冷めた目で見ています。このように、全体として問題点を探知する能力が非常に低下しているにもかかわらず、返事が遅いと文句を言われないよう四六時中SNSばかりやっていて、世の中に出て人々の暮らし向きについて聞いている暇がない。全く困った状況です。

それが端的に表れているのが、政治資金問題に見る政界の鈍さです。悪いのは裏金つくってごまかしていることであって、私に言わせれば、企業・団体献金禁止なんてどうでもいい話です。国民は、公私の区別がなく、政治家だけがいい思いをしていることに不満を持っているのです。「1円単位で金の使い道をガラス張りにする」と言っていますが、普通の会社ではきちんと企業会計を行っており、ごまかすことはできません。監査法人も、政治家の監査をするのは嫌だと思います。たくさん領収証が貼ってある大福帳みたいなものを見たところで、正しいかどうかなんて分かりません。普通の商店でもみんなしている会計原則に沿って報告するということを政治家はしていない、そこが大間違いであるにもかかわらず、本人たちは全く気がついていないわけです。

(6)政治家本位の政治の限界(図表6)

図表6

図表6

結局、現在の日本政治の問題点は、政治家本位だということです。議員定数削減論は本当にけしからんと思います。やり方だけでなく、本当に身を切る改革なのか。有権者との接点を減らすことを、身を切る改革と言っている背景には、ポストは自分たちのものだという政治家本位の発想があります。ポストが多いことは、自分たちにとってメリットだと思っているのです。しかし、議員の数は国民のために働く人の数ですから、それを減らすことが国民のためになるのかどうか。発想が逆になっていると言わざるを得ません。

一方で、多党化が進む中、中選挙区制復活論が出ていますが、多党化の場合、定数を削減してはいけません。党の数を増やしたら委員会が回らなくなります。私はもともと中選挙区制復活論には反対ですが、最近出ている案にはもっと反対です。なぜなら、政治家の魂胆が見え見えだからです。選挙で負けて野党と組もうと思っても、今の小選挙区制では、戦っているから組めない。選挙で負けたとき、野党を仲間に入れるために中選挙区制にしたい。野党は野党で、自民党が負けたら与党になりたい。中選挙区制なら自民党と組めるということで、結局は選挙に負けても大丈夫なようにしようとしているだけです。これではあまりにも国民をばかにしています。

中選挙区制は主要国では日本にしかなかった制度です。しかも、パラドックスが起こるので、プロは支持しません。それでもやりたいと思う政治家は、中選挙区制を分かっていません。同じ党の候補者とも戦うわけですから、よほどの手間をかけない限り難しい。「○○さんは両手で握手したのに、あなたは片手でしかしない」なんて言う人もいたりして、本当に大変です。

そうなっている原因は、中選挙区制時代から小選挙区制になっても続いている個人後援会選挙、すなわち選挙区の私物化です。日本で世襲議員が多いのは、個人後援会があるからです。中選挙区制はまさにそれがないとできないわけですが、この個人後援会を手放したくない。結局、政界はパパママショップです。政党といっても全く組織化できていません。現代の複雑な状況では、個人の才覚で何とかしようと思っても、この難しい世の中では分担しないとどうにもなりません。にもかかわらず、私が政治家に何度同じような話をしても聞かないのは、長年踏襲してきた選挙区を他人のものにされるのが怖いからです。個人後援会政治では、パパママショップで一国一城の主です。したがって、自民党の政調会で反対してもオーケーということで、利権をかませないと納得しない、こういうことをやっているわけです。

また、みんなが一国一城の主で差別化できないので、能力があろうとなかろうと当選6回で大臣になり、ようやく仕事を覚えたと思ったら1年ぐらいですぐに交代する。全くもって政治家本位の政治です。この難しい世の中では、能力のある人がいれば、悔しいけれどあの人にやってもらうしかないということで我慢しないと、日本は立ち行かなくなります。にもかかわらず、相変わらず気楽な政治をしています。

しかも、政治家は行政依存です。役人に言えば政策が出てくると思っていますが、安倍内閣以降、役人たちは四六時中、「すぐに効果のある政策を出せ」と言われ続け、既に発想が枯渇しています。私は、役人に政策のつくり方を教えるのが本業です。ところが、役人を集めて大学で勉強会をすると、「久しぶりに政策の議論が存分にできた」と情けないことを言われます。役所では、「○○先生を説得するには、パワポの背景を青にしたらいい」とか「○○先生が機嫌を損ねたら、お孫さんの話をすればいい」といった話ばかりしていて、根回しが忙しいからといって、肝心の政策づくりはシンクタンクに投げている。こんなことでは何も解決しませんし、役所をだめにするばかりです。政治家はもうそろそろ役所頼みをやめるべきです。

さらには、国民統合という課題を忘却しています。これを言ったら国民が壊れてしまうので絶対に言ってはいけないということがあるのですが、選挙に勝つことばかり考えてそれを言ってしまうというのは、本当に自分本位だと思います。

(7)有権者本位の政治への転換(図表7)

図表7

図表7

では、何をすべきか。有権者本位の政治への転換です。

まずは政治の組織化が必要です。きちんと役割分担をして、政策の得意な人が大臣になり、そうでない人は根回し専門でやる。また、国会の議長や委員長はもう少し偉くならなければいけません。実は、定数削減法案が通らないことはみんな薄々知っています。反対している立憲民主党の議員が委員長だからです。これまでは委員長といっても何の権限もありませんでしたが、権限があることがだんだん分かってきました。これが本来の姿です。

役割分担するということは、政党本位ということです。しかし日本では、政党が全く誤解されています。国会議員が5人以上集まれば政党、これは19世紀の話です。20世紀は組織政党ですが、それも時代遅れです。共産党や公明党のような上意下達型の組織は、もはや成り立ちません。目指すべきは、ネットワーク型の柔軟な組織です。ウェブ上にはそれを支える様々なインフラ、すなわち、有権者をつなげ、要望を聞き、実現する仕組みが存在します。にもかかわらず、うまく使うことができていません。

例えばヨーロッパは、20世紀型の組織政党があまりによくできていたために転換が遅れ、ポピュリストにやられています。アメリカは、19世紀に現れたアイデンティティ型の政党がトランプ大統領に乗っ取られてしまい、他の人たちは茫然自失ですが、長年の草の根デモクラシー的なやり方があまりによくできているため次に移れない。そして日本は、個人選挙があまりにうまくできているためにそこから逃れられません。したがって、先進国の中で一歩先を行くには、新しい政党の姿をつくれるかどうかが鍵となります。

その点で、私は3年前から、主張には全く反対ですが、参政党とチームみらいという二つの政党に注目していました。

参政党は、日本で20世紀型の組織政党を一からつくろうとして、21世紀に初めて成功した政党です。政策も候補者も有権者(党員)が投票で選ぶ、すなわち有権者主体ですから、彼らは一生懸命ただで運動します。お金を払わないと運動しない自民党の秘書とは大違いです。その参政党が今年ようやく化けました。しかし、この先どうなるかは分かりません。運動している党員と政党本部の間に距離があり、そのあたりで苦労するのではないかと私は見ていますが、いずれにしても、他の党もこのやり方を参考にすべきです。そして、安野さんの「チームみらい」は、インターネットからできた小さな政党で、神谷さんとは逆の方向ですが、この両方を兼ね備えたような政党が出てきたら、かなり伸びるでしょう。企業に例えて経営者的な頭で考えると、もし私が自民党の総裁だったら、参政党を買い取って自民党に入党させます。こういう決心ができれば自民党も生き残れますが、ただで働いてくれる参政党の党員は個人後援会とぶつかりますから、なかなか難しいと言わざるを得ません。しかし、それでもやるかどうか。

政策本位の政治への転換も必要です。SNSが広がったことで出馬コストが劇的に下がり、次の総選挙でさらに新党が出てくる可能性があります。政策のつくり方に困ったら、私が教えてあげたいと思いますが、とにかく政策本位にならなければいけません。政治家はやるべきことを勘違いし、政策新人類は自分で立案しようとしています。しかし、そんなことをする必要はありません。重要なのは、この政策の目標は何か、何を実現しなければいけないのかというところまで含めたアジェンダ設定です。そこまでしたら、あとは役人が手段を講じてくれます。

もう一つ大切なのは、有効な政策決定です。政治家はこれを軽く見ています。安倍さんがうまかったのは、わざわざ野党を敵にし、対立を演出した上で決定した姿を見せていたことです。だからこそ国民は理解を示したのです。かつての小泉さんのように、ただ決めるのではなく見せ場をつくる。国会はそういう場でなければいけません。そのためには、質疑ばかりするのではなく討論が必要です。反対だけれども仕方がないと思わせるところまで持っていけるのが、いい政治家です。そして、政策実施は役人に任せる。合理的な手段は山ほどあります。

ただし、自治体は市町村まで人手不足で疲弊しているので、政策実施のやり方を変える必要があります。先進国で、国民にお金を配るのにこれほど手間のかかる国は日本だけです。他の国々では銀行預金とのひも付けがほぼ完成している中、日本はコロナのときにあれだけ困ったのにまだ十分ではありません。それで自治体が現金給付を嫌がったら、今度はおコメ券なんて言っている。本当に驚きです。この非常に遅れた行政を抜本的に変えるための知恵を出さなければいけないにもかかわらず、中央省庁は根回しで忙しく、自治体は国から来る注文に応じるのに精いっぱい。これではだめです。

政治に幅を作るための、二院制の有効活用については、参議院でやってほしいところですが、これもなかなかできません。衆議院から来たことだけやっているような参議院では二院制の意味がないということで、維新が次に言い出すのは一院制かもしれません。

国と地方の役割分担も重要です。両方で同じことをやるのではなく、地方に責任をとってもらうということもどこかで決心しなければいけない。これだけ激しく人口が減少している中では、日本政治を根本的に変える必要があります。

(8)これからの日本政治の展開(図表8)

図表8

図表8

高市政権が安定するかどうかは経済次第です。ハイパーインフレが起こったら、もたないでしょう。ハイパーインフレを収めるには劇的な手段が必要ですから、林官房長官が出てきても難しいと思います。金融政策が使えない中では、財政を削って不況にするしかありませんが、その決心ができるかどうか。

また、本人の体調という問題もあります。トップリーダーが寝ていないことを自慢すべきではありません。判断力を確保するためには、しっかり睡眠をとることも大切です。先週、高市さんに会った人の話では、かなり顔色が悪かったとのことです。そんな状態では長くはもちませんから、正月に休んで回復してくれたらと思います。そして、高市さんは、何でも自分で書類を読み込まないと成り立たないと思っているようですが、そのスタイルも変えなければいけません。総理になったら、他人の知恵を使って自分の知恵を補うことも必要です。

解散総選挙はあるのか。これについてはかなり不安定です。勘違いして解散する可能性もありますが、どんなに高市政権の支持率が高くても、自民党が大勝するのは難しいと思いますし、野党がまとまっていないので連立相手が増えるだけです。したがって、政権交代は、当面は期待薄ですが、中期的には、いよいよ自民党が小さくなってくれば可能性はあります。実際にどうなるかは分かりません。しかし私は、早く解散総選挙をしたほうが意外といいのではないかと思っています。今は自民党でも、世襲議員を含め、当選1回、2回の議員は飲み会政治が嫌いで、昭和の政治家とは距離をとっています。そういう議員が増えてくれば世間並みの常識的な政治をしますから、選挙をやってどんどん人を入れ替えたほうがいい。むしろ、入れ替わりが非常に遅いのは立憲民主党です。このままでは徐々に小さくなり、将来はありません。

その点で言えば、新党が出てきて政党が再編されていくでしょう。政界再編、すなわち政治家の組合せではなく、有権者との関係によって政党の姿が決まってくる、こういったことが中期的には起こり得る時代になってきました。それで次の政治が見えてくれば見通しは明るいのですが、過渡期は具合の悪いことが起こりがちです。しばらくは官僚制に踏ん張ってもらわなければいけません。しかし、国際環境は待ったなしです。内外の問題を両方処理できるかどうか。あまり痛い目にはあいたくありませんが、それが今の日本政治の課題であり、油断はできないというのが今日の話の結論です。

御清聴ありがとうございました。(拍手)

○森本理事長 日本政治の問題について、非常に深いところを分かりやすく御説明くださり、ありがとうございました。

それでは、御質問、御意見をお受けしたいと思います。いかがでしょうか。

○質問者A 対中戦術、外交において、トランプ大統領への報告・同意で習近平に先を越されたり、せっかく大転換したコメ政策を元へ戻したり、高市政権は短期で崩壊するのではないかと危惧していますが、いつ頃になるでしょうか。

○飯尾 大変難しい問題ですが、実は御指摘のコメ政策の転換が、高市さんが総裁選で勝った大きな理由です。私はいかがなものかと思いますが、農家からの支持を得て政権をとったわけですから、なかなか改められないと思いますし、コメ政策の転換で政権が崩れることはないと思います。そして、残念なことですが、中国との関係が悪化して、支持率は上がっています。政策としてはいかがなものかということと政権の行き詰まりが全く別になっているわけです。

ですから、政権は続くけれども政策が行き詰まる可能性もあれば、政策はそこそこやるけれども政権が行き詰まって崩壊することもあり得ます。一番早い崩壊は、高市さんが体を壊すことですが、もう少し先の展開としては、経済が持ち直して高市さんが引きずり降ろされる、あるいは、解散総選挙をやろうとしてできない、若しくはやって失敗したときかもしれません。暮れに急に解散なんてことはないと思いますし、あったら困りますが、そのあたりも含めて非常に読みにくいというのが正直なところです。

○質問者B 以前、財務省で働いていたとき、昭和型の政党の事務局の古株の方が、みんなの党など様々な第三政党が出てきた頃に、「政党を見分ける際には三つの要素を見たらいい」と言っていました。まず、政党本部の土地を政党が持っているかどうか。次に、政党事務所があるビルの中に党員・職員用の食堂があるかどうか。そして、自民党で言えば部会など、政党の中に政策を議論する構造があるかどうか。これらの基準は私が現役の時代には非常にワークしていたと思っていますが、これからの政党の在り方、つまり昭和型でないネットワーク型の政党になるときに、我々有権者としては何をメルクマールとして見ていけばいいのか。そのあたりをもう少し教えていただけたらと思います。

○飯尾 素晴らしい御質問ですが、私がまさにこれから勉強しようと思っていることですので、不十分なお答えになってしまいますけれども、一つ目は、有権者の自発性を動員できている政党かどうか。既存政党のように有権者をお客さんにするのではなく、参政党のように、有権者が積極的に注文をつけ、政治活動をしているかどうか。二つ目は、意思集約をする仕組みを持っているかどうか。議員同士がきちんと議論のルールを持ち、自分たちで結論を出せる仕組みを持っているかどうか。三つ目は、そういう場が有権者とつながっているかどうか。

かなりの部分は電子的にやれる可能性はあるのですが、今の技術では十分できないので、イノベーションが必要です。政治ですから何でもオープンにはできませんが、オープンとクローズドをうまくつなぎ合わせながら、全体として秩序を構築していくような政党が生まれれば、世界的に見ても次の新しいモデルになると思います。ただ、今はまだ出ていないので、これから研究したいと思っております。

○質問者C お話の中で少し触れておられましたが、役所と政治家の関係は今後どのように展開するのでしょうか。特に財務省を攻撃するのが一種のポピュリズムのようになっていて、それはこれからの行政に非常に大きな影響を及ぼしかねないと思うのですが、このあたりはどうお考えでしょうか。

○飯尾 役人を悪者にしているのは、政治家の甘えです。まるで、お母さんに頼っているのに文句ばかり言う子どものようですが、そのせいで役所は本来の行政ができない水準になってきていますし、政治家も、それは自分の足を食べているのと一緒だということに気がつかなければいけません。そのためには、役所は政治家の世話をほどほどにすべきです。そうすれば政治家もちょっとは目が覚めるかもしれませんが、ポピュリストはあれこれ言ってくるでしょう。しかし、役人が気概でそれに反発する姿が漏れ出てくるようにして、役人を攻撃するのはおかしい、役人はそういう対象ではないということに次第に気がつくように持って行くしかない、正攻法でいくしかないと私は思っています。

○質問者D 私はかねてより、二大政党論がもっと成長してほしいと思っていました。しかし、アメリカもなかなかそうはいかない感じですし、日本の場合は、立憲民主党がもう少ししっかりしてくれるかなと思ったのですが、高市総理が松下政経塾の後輩ということもあるのか、野田代表はやけに理解のあるような発言が多く、これではむしろ自民党と一緒になったほうがいいのではないかという感じがします。これから小さな政党が独立してどんどん出てくるというお話でしたけれども、二大政党が成り立つためには、立憲民主党が、もう少し毅然とした態度、あるいは、もっと大きな世界観を持つことが必要だと思うのですが、やはり問題は政界の人材不足なのでしょうか。

○飯尾 私も立憲民主党が自民党の受け皿になることを期待していましたが、数年前にそれは諦めました。なぜなら、個人後援会ベースで、自分の生き残りばかり考えているからです。国民のために自分の身を捨てる、つまり、今のリーダーの皆さんが引退して新しい人を出し、私が申し上げたような組織化を遂げ、自民党にできないことを行って政権をとるのであればいいのですが、全然その気がないとなると、今のままでは政権をとる資格はありません。逆に、若手が20年前からいるリーダーたちを追い払ってでもやるぐらいになると、立憲民主党にも可能性があるかもしれません。しかし、一番考えられるのは、次の選挙で立憲民主党が小さくなり、様々な新党が出てくる中で、自民党も含めた政党再編が行われることです。

日本人の国民性としては、基本的に中道が好きですから、二大政党制に合っていると思いますが、再建する中のテーマをまだ彼らは見つけられていない。政党再編には数年かかりますが、私は、10年と言わず5年ぐらいでその状態に持っていってほしいと期待していますし、総選挙でどんどん人が入れ替わったほうが、その可能性が高まるのではないかと思っています。

選挙制度改革をすれば別ですが、今の制度を残したままなら、また再編の機運が出てきて、意外なことで政権をとって安定するということもあり得ます。ただ、新しい政党の完全な姿でなくても、幾らかはその要件を備えないと、とてもじゃないけれども安心して任せられない、こういうことではないかと思っております。

○質問者E お話の中にもありましたように、今この政策をとる意味が分からないということが多いように思います。以前は、経済政策だけでなく、大蔵にしろ、経産にしろ、外務にしろ、その部門を担当する専門的な政治家が自民党の中にはいたと思うのですが、最近は、どう見てもその分野に詳しくない方が主要なポジションに就く傾向があるように思います。これは、政党の中での人材育成がないがしろにされているということなのでしょうか。

○飯尾 実は、昔から政党の人材育成はないがしろにされています。派閥の教育機能といっても、酒席のしきたりを教えているだけですし、族議員といっても、役所が相手にしているから族議員だったわけです。にもかかわらず、役所を叩いて偉そうにしているから教えてもらえない、だから人が育たない、それだけの話です。一方、他の国々では、例えばある分野の大臣になろうと思ったら、長年、委員会で立派な討論をし、副大臣になって答弁をして、「この人はできる」とみなされた数人の中の1人だけが大臣になり、失敗するまで5年でも6年でも続けます。日本もこれぐらいのレベルにならないと人は育ちません。もともと役人として才能のあった人が政治家になり、政策通と言われることは多いですが、それ以外では非常にまれですから、これから新たに人材育成を行っていくべきです。

ただ、日本は人材育成の期間が長過ぎます。他の国々では大体、十数年でトップに上り詰めます。ですから日本も、今、政界入りした人が10年後に総理大臣になることを考えたほうがいいと思います。30年やらないと総理候補にもならないというのでは、この移り変わりの激しい今の世の中、どうにもなりません。民間のように3~4年で能力をつけて活躍する、政界もそうなるべきだと私は思っております。

○森本理事長 時間も過ぎておりますので、本日の「資本市場を考える会」は以上とさせていただきます。

飯尾様、大変明快なお話をありがとうございました。(拍手)

(本稿は、2025(令和7)年12月9日に開催した講演会での要旨を整理したものであり、文責は当研究所にある。)

御略歴

【略歴】

1962年生まれ。
1986年東京大学法学部卒業、1992年同大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)、同年埼玉大学大学院政策科学研究科専任講師、1993年同助教授、1997年政策研究大学院大学助教授、2000年同教授(現在に至る)。
2001~2002年ハーバード大学客員研究員。

【専門分野】

政治学(現代日本政治論)

【主要な著作・論文等】

  • 飯尾潤『民営化の政治過程:臨調型改革の成果と限界』(東京大学出版会、1993)
  • 飯尾潤『日本の統治構造:官僚内閣制から議院内閣制へ』(中公新書、2007)
  • 飯尾潤『政局から政策へ:日本政治の成熟と転換』(NTT出版、2008)
  • 飯尾潤・苅部直・牧原出(編著)『政治を生きる:歴史と現代の透視図』(中央公論新社、2012)
  • 飯尾潤『現代日本の政策体系:政策の模倣から創造へ』(筑摩書店、2013)
  • 飯尾潤(編著)『政権交代と政党政治』(中央公論新社、2013)
  • 御厨貴・飯尾潤(責任編集)『「災後」の文明』(阪急コミュニケーションズ、2014)
  • 飯尾潤『改訂版 現代日本の政治』(放送大学教育振興会、2019)
  • 五百旗頭眞・御厨貴・飯尾潤(監修・著)『総合検証 東日本大震災からの復興』(岩波書店、2021)