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第2号

研究会論文 株式分割と資本市場―なぜ株式分割はインサイダー取引規制における重要事実なのか―

飯田秀総(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

〔要 旨〕

 本論文は,日本のインサイダー取引規制において株式分割が重要事実として位置づけられている根拠を,株式分割が株価に与える影響の実証的分析を通じて考察することを目的とするものである。
 まず,金融商品取引法において株式分割が,合併や業務提携といった事業運営や財務状況を変化させる事実とは異なる特殊な位置づけにあることを指摘し,その立法理由が株価を上昇させる効果があることに求められていることを確認する。この点について,本論文は,株式分割が株価に影響を与えるメカニズムが時代ごとに変化してきたことを明らかにする。具体的には,商法改正以前の小幅な分割が「増配のシグナリング」として機能していた可能性,2006年までの制度上の歪みによる「分割バブル」の可能性などを先行研究に基づいて指摘した後,売買単位の統一が完了した2018年10月以降の「純粋な株式分割」による株価への影響を実証的に分析した。その結果,2018年10月以降に行われた株式分割では,公表日に統計的に有意なプラスのリターンが発生する傾向が観察され,株式分割が株価を上昇させる情報であることが確認された。
 次に,株式分割の裏返し行為である株式併合について分析する。株式併合は,売買単位の統一を目的とした事例を除けば,株価を下落させる傾向がある。このことは,株式分割が株価を上昇させる事実であることと表裏の関係にあると言える。にもかかわらず,株式併合がインサイダー取引規制の重要事実として位置づけられていない現状は,論理的に一貫性を欠くのではないかという問題提起を行う。
 結論として,株式分割と株式併合のいずれもが株価に影響を与える事実であることから,インサイダー取引規制の対象とすることは,論理的な一貫性を保つ上で合理的であると提言する。ただし,本論文では,株式分割の機能を解明するにとどまり,インサイダー取引規制のあり方といった根本的な課題については今後の研究課題とした。

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