第2号
研究会論文 会社法・証券法と分散台帳技術―デラウェア州会社法改正を参考として
小出篤(早稲田大学法学部教授)
- 〔要 旨〕
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            2017年の米国デラウェア州一般事業会社法改正は,分散台帳を用いて株主名簿その他の会社の記録を作成することができることを明文で認めた。本稿は,同改正の概要を紹介するとともに,同改正を契機として米国において展開された,分散台帳を用いて株主名簿を作成することが米国の会社法および証券法の制度のもとでいかなる実務的・理論的インパクトを有するかについてのいくつかの議論を概観する。 
 分散台帳による株主名簿には,リアルタイムに株式の所在情報を同期的に共有できることや,発行以後の株式の移転の履歴をトレースできることといった,従来の制度においてはなかった特質がある。これらの特質は,米国の証券決済システムの技術的制約のもとで生じているさまざまな問題を解決するツールとなる可能性があるとともに,現在の制度を前提とした法制度の運用や投資家の行動に変容をもたらす可能性がある。そのインパクトは,メリットとデメリットの両方が複雑に絡み合っており,米国で分散台帳を利用した株主名簿の実務が進行していないのは,技術面での問題にとどまらず,会社法・証券法の本質に関わる部分への影響について未だ見通すことが難しいということもあるのかもしれない。




