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証券経済研究 第97号(2017年3月)

東京電力改革と東京電力債の格付け動向

三浦后美(文教学院大学大学院経営学研究科教授)

〔要 旨〕
 2017年1月18日,東電グループは,11年3月に発生した福島第1原子力発電所事故以降,中断していた公募電力債発行を6年半ぶりに再開すると報道された。調達額は1,000億円程度で,東京電力ホールディングスの傘下の送配電子会社の東京電力パワーグリッドが17年3月にも一般担保付社債を発行するという内容である。東電グループの公募電力債発行の再開は,16年10月に発足した経済産業省の有識者会議「東京電力改革・1F問題委員会」の議論を契機にはじまる。経済産業省の有識者会議は,東京電力ホールディングスの改革と福島第1原子力発電所(1F)事故対応を議論し,16年12月20日に提言をまとめた。その前提にある新・総合特別事業計画では,すでに長期の設備投資資金の安定的,自律的調達の観点から,16年度中に公募電力債市場に復帰することが予定されていた。公募電力債市場に東京電力が復帰するということは,原子力事業リスクを正常に織り込んだ状態にないなかで,東電グループの信用力が新たな意味で大きく問われることとなった。
 第二次世界大戦後の経済復興期,それに続く高度成長期・安定成長期には,一般担保付社債制度は導入当初の意図の通りに機能し,設備拡充によって増加する電力需要を満たし,経済成長を支えてきたという。しかしながら,いま,仮に,発行体が倒産した場合の一般担保付社債について利息の支払いが遅延するなどの事由が生じた場合には,当該社債権者は発行体の財産に成立した一般担保を実行できると解するのが一般的である。一般担保付社債がデフォルトした事例はないものの安心できない。
 投資家保護の観点から,原発事業を持つ電力会社で新たに発行する新発電力債は,劣後債の形で発行できるよう,制度設計を検討することが考えられる。現状,新規発行の社債の扱いが大幅に条件を落とす際は,既存の発行分についても金利などの発行条件を変更する必要がある。東京電力などの電力債は発行残高が大きく,変更は難しいとされる。しかし,原発事業などの産業リスクが顕在化した以上,投資家保護の趣旨からすると,その制度設計について議論する余地がある。現在の東電グループの経営危機は,電力生産の安全を担保して国民の命を守ることの公益性よりも,むしろ政府の支援を傘に,組織の利益だけを優先する私企業性のエゴイズムだけが際立っていることを理解するべきである。

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