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証券経済研究 第96号(2016年12月)

英国のクラウドファンディング市場—FCAによる新規制導入後の市場動向—

松尾順介(桃山学院大学教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕
 本稿では,2014年4月にFCAによって新規制が導入された,英国のクラウドファンディング市場の動向について,ケンブリッジ大学オルタナティブ・ファイナンス・センターおよびNestaによる報告書“Pushing Boundaries : The 2015 UK Alternative Finance Industry Report”にもとづいて紹介した上で,日英のクラウドファンディング市場の相違について検討する。
 まず,直近の英国のクラウドファンディング市場について,同報告書は以下の点を注目点として挙げている。①事業者向け金融に占めるシェアが拡大し,クラウドファンディングによる事業融資は,2015年の英国の銀行による小規模企業向け新規融資総額(2014年63.4億ポンド)の13.9%に相当するものと推測される。②機関化が進展し,2015年のP2Pの消費者融資の32%およびP2P事業融資の26%が機関投資家の資金によって占められている。③寄付型も急成長しており,2014年200万ポンドに過ぎなかったが,2015年には1200万ポンドと約500%増となっている。④不動産向けのクラウドファンディングは,融資と株式投資を合わせると,2015年約7億ポンドに達している。⑤株式型クラウドファンディングが2015年に二番目に高い成長率を記録し,2014年8400万ポンドから2015年3億3200万ポンド増加し,295%の増加となっている。不動産向けの8700万ポンドを除くと,2億4500万ポンドであり,英国のシードおよびベンチャー株式投資(2015年15.7億ポンド)の15.6%に達している。さらに,2012年から15年にかけて,1200件以上の資金調達案件があり,2015年には最初の2件の投資回収が報告されている。⑥現行規制に対する業界の満足度はかなり高く,P2P融資および株式型クラウドファンディングに係る現行規制について,90%以上のプラットフォームが現行規制を適切かつ妥当と回答している。⑦最大のリスク要因は,プラットフォームの悪用および不法行為とされ,知名度の高いプラットフォームが不法行為によって破綻するリスクが挙げられている。このように,同報告書は2015年の市場動向について,クラウドファンディング業界は,規制上の支援や政策的支持だけでなく,市場成長,ビジネスモデル,周知性,企業のパートナーシップ,機関化,商品の革新,国際的拡大という面で成長しているとしている。つまり,英国のクラウドファンディング市場は,複合的で柔軟性があり,動的かつ急速な成長を遂げつつあることが示されている。
 その一方,日本のクラウドファンディング市場も成長しているものの,英国に比べると,新規参入,市場規模および市場参加者において,英国の後塵を拝している状況である。このような相違の背景には,規制のあり方,P2P融資市場の相違,税制インセンティブの相違などが指摘できる。

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