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証券経済研究 第94号(2016年6月)

HFT(高頻度取引)は群衆心理的な行動を採るか—パッシブ型発注戦略を解明する—

辰巳憲一(学習院大学教授)

〔要 旨〕
 株式などの売買の発注の高速化・低コスト化が達成された。この環境の下,べンチマークを設定し,それに近づけるパッシブ型発注戦略とその効果を考えてみる。特に,仲値,最良気配,日平均約定価格,日終値,発注時株価などで該当の銘柄を売買しようとする,VWAP,TWAPやMOC,さらにペッグ,ウェイト・パウンスなど様々な戦略を分類して詳しく分析しよう。
 HFTの相場観や行動目的はプログラミングを指図したトレーダーのそれである。個々のアルゴリズムは理にかなっていても,集まると別の論理になり,投資家の手を離れて烏合の衆となり市場は迷走すると心配する向きもある。HFTは,ポジションの保有を避けるために,短期間内に反対売買を行う。そして,この売りに対して別のHFTの買いが入った場合,これも次の売りを生む。HFT以外の市場参加者が一時的に発注を控えるような状況の中で,HFTだけが取引する状況になった場合,確かに価格が一方向に急変してしまう恐れはある。しかし,詳しく見てみると次の通りである。
 (1)複数のトレーダーが同じようなプログラムで取引をし,もし仮にそれを闇雲に続けるとすれば,暴落の際には道連れになるかもしれない。しかし,HFTは多種多様な戦略をとり互いに優劣を競い合っているので,このような議論は適用できない。
 (2)パッシブ型発注戦略は,時には一部の動物のように背景に溶け込む擬態をしながら(VWAP),時には透明人間になり(非表示注文),あたかも忍者のように行動する。さらに忍者を超えて,アメーバのように自身を分割して将来へ活路を見出す。
 (3)低レバレッジで,在庫保有に関してはリスク・ヘッジしている,等の理由でHFTがシステミック・リスクを膨張させる可能性は存在していない。しかも,個々には小規模であり影響力は小さい。さらに,その取引形態を見てみると,リスクを市場に転嫁すると同時に吸収している。そして,HFTのパッシブ型発注戦略は,単一銘柄の最適購入・売却価格の探求に集中し,ベンチマークとなっている価格指標が非常に多く存在する。
 (4)パッシブ型発注戦略がシステミック・リスクをもたらさないためには,バグやミスが含まれるソフトは使用すべきでない。誤発注,誤送信を防ぐために,売買停止ルールはプログラムに組み込むなど十分な防護措置を整え,他のトレーダー・投資家と取引所をトラブルに巻き込まないにするべきである。そのためには内部だけでなく外部の事前監査が必要になる。

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