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証券経済研究 第92号(2015年12月)

機関投資家のエージェンシー問題

田代一聡(当研究所研究員)

〔要 旨〕
 経済学において,機関投資家は,運用資産の大きな投資家としての側面に焦点を当てられる事が多いが,資金運用の委託を受ける代理人(エージェント)としての側面も存在する。すなわち,資金を委託する者(以降,委託者)がおり,その者から資金を受託して,運用するのが機関投資家の基本的な立場である。そのため,資金委託者が依頼人であり,機関投資家が代理人となるのは当然のことと言える。
 この事を考慮すると,機関投資家は,大きな投資家という側面に注目した場合に想定される,企業経営者との間のエージェンシー問題だけでなく,資金運用の受託者という側面に注目した場合に想定される,資金委託者とのエージェンシー問題にも直面している。経済学の分野において,前者の問題は多くの先行研究が存在し,問題の認識が共有されているように思われる。その一方で,後者の問題はほとんど議論が見られず,問題の認識も共有されている様には思われない。
 例えば,近年,機関投資家の行動規範に関する議論が耳目を集めている。これらの議論における機関投資家の立場は,運用資産の大きな投資家としての側面に焦点を当てており,資金運用の受託者という側面に関してはそれほど注意を払っているように思われない。しかし,法学の分野において,受託者責任(あるいは,フィデューシャリー・デューティー)が長年議論されている点を鑑みると,資金委託者とのエージェンシー問題は重要であると考えられる。
 この論文では,資金委託者と機関投資家の間で起きるエージェンシー問題について議論を行う。金銭報酬や評判というような要因によって,どのような形で諍いが生じるのかについて概観していく。それにより,今後の機関投資家のエージェンシー問題に関する認識の共有や,機関投資家の統治(ガバナンス)体制の構築の議論等に資することを期待している。
 そのために,機関投資家の統治の定義についても議論を行う。企業統治において,“統治”という用語が非常に曖昧な使われ方をしているように思われる。そのため,企業統治における“統治”の用語の用いられ方を概観し,それを機関投資家に適用した場合に,どの様に考えることが可能なのかという点について検討をする。

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