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証券経済研究 第82号(2013年6月)

セントラル・バンキングの歴史的展開
—イングランド銀行はいつ中央銀行に変貌したのか:再考—

春井久志(関西学院大学経済学部教授)

〔要 旨〕
 一般に,「世界最古の中央銀行は1668年創立のスウェーデン国立銀行(リクスバンク)であり,1694年創立のイングランド銀行は世界で2番目に古い中央銀行である」とされている。しかしながら,これらの2つの銀行はその設立当初は,今日で言う近代的な中央銀行ではなく,商業銀行に過ぎず,その後長い時間の経過の中で徐々に中央銀行へと発展していったにすぎない。その意味では,「今日,現存する中央銀行のうち,創立年次が一番古いのがリクスバンクであり,二番目がイングランド銀行であり,三番目がフランス銀行である」,と言うべきであろう。
 イングランド銀行は,戦争による政府財政の逼迫を緩和する目的で設立された,いわゆる「政府の銀行」としての役割を期待された民間の銀行であった。Meltzer [2003]によれば,現代の中央銀行理論(the theory of central banking)は,金本位制度の下にあった18世紀および19世紀に徐々に発展し始めた。その当時,イギリスが国際貿易や国際金融,さらに経済理論においても支配的な優位を誇っていたために,中央銀行(セントラル・バンキング)理論の発展の大部分がイングランド銀行において発生し,同行の銀行業務や諸行動に応答する形で中央銀行業務の理論的な進展が見られた。さらに興味深いことに,アメリカの連邦準備制度(Fed)を設計した人びとはヨーロッパの中央銀行,なかんずくイングランド銀行において優勢であった中央銀行理論と諸慣行を反映した政策運営の方式を受容していった。その上,1920年代のFedを発展させた人びとは,1914年以前のイングランド銀行から中央銀行の目的の多くと中央銀行の叡智の大半を輸入した。この輸入した叡智をアメリカの経験から得られた諸慣行や諸原則とうまく融合することによって,Fedの創立時のみならずその後の長い期間における政策運営を導く指針となった広範囲におよぶフレームワークを創出した。このような理解に立脚すれば,イングランド銀行を中心にして「中央銀行の本質」や「中央銀行論」を分析することの意義は明白であろう。
 それでは,イングランド銀行はいつ[近代的な中央銀行」へと変貌したのであろうか。町田[1967]は1980年のベアリング恐慌時にイングランド銀行が最後の貸し手としての機能を非競争的で利潤最大化を目的としない公共政策として発動したとして,19世紀の後半を主張している。しかし,その論拠は,町田自身も認めているように,頑健性を欠く。Sayers [1976]をはじめ,Toniolo [1988]やCirncross [1988]も20世紀前半説を支持しており,ノーマン総裁(1920-44年)の時期にイングランド銀行が中央銀行への進展が完了したと考えることが最も説得力があると考えられる。

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