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証券経済研究 第82号(2013年6月)

量的緩和政策の日英比較

斉藤美彦(獨協大学経済学部教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕
 2001年から約5年間採用された日本銀行の量的緩和政策は,さしたる効果を上げることはなかった一方で短期金融市場の機能不全という副作用をもたらした。今次危機に対応した各国中央銀行は,この日銀の経験を参考としてか自らの採用した非伝統的・非正統的と呼ばれる政策について量的緩和政策と呼ぶことには禁欲的である。そのなかでイギリスの中央銀行であるイングランド銀行(BOE)は,2009年3月以降採用している政策を明確に量的緩和政策と位置づけている。
 本稿では,日銀とBOE の量的緩和政策を比較することにより,後者が子会社(APF)による資産購入額を目標(ただしそのファイナンスは準備預金により行う)とするという方式としたこと,そしてその準備増は準備預金への完全付利という方式により可能となったことを明らかにした。
 ただし,BOE の量的緩和政策はこれまでのところさしたる効果を上げておらず,インフレーション・ターゲティングの枠組みとの関係でも,レンジを上方に離れた段階においても引締め政策に転換できないなど,その限界が明らかとなっている。また,一般向けの説明についても単純なマネタリスト的な説明を巧妙に変化させ,効果の無さを認めつつも「それがなければ経済には大きな痛みが生じたであろう」的な説明を行わざるをえないほどに追い込まれている。さらには,量的緩和の効果がないことを認め,より直接的に銀行に貸出増加のインセンティブを与える制度(FLS)を導入したが,その効果もこれまでのところ確認できてはいない。
 一方,日銀についても今次危機対応で種々の措置をこれまで採ってきてはいるが,2001年からの時期と決定的に異なるのは超過準備に付利を行う制度(補完準備預金制度)を導入したことである。これにより供給した資金を事実上「吸収」することで市場機能維持のための潤沢な流動性供給と金利機能維持を両立させることを可能としたのである。
 しかしながら,今次危機対応の金融政策は,日本においてもさしたる効果を上げていない。日本においては政府の意向に忠実な新総裁体制により異次元緩和を推進しつつあるが,イギリスにおいては外国人の中央銀行総裁を招いてのレジーム・チェンジということになるかもしれない。しかしながら両者の今後は不透明であるといってよいであろう。

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