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証券経済研究 第80号(2012年12月)

金融不安定性分析のための時系列モデル:理論分析

須藤時仁(獨協大学経済学部教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕
 2008年からの世界的な金融・経済危機を受けて,マクロ経済モデルの改良が模索されている。Goodhart, Sunirand and Tsomocos [2006a],Tsomocos [2003a, b]は,経済主体のデフォルトを均衡現象として定式化したモデルを開発した。これらのモデルでは,デフォルトが均衡現象として説明されるため,金融システムの脆弱性も均衡現象として分析することが可能という優れた特性がある。しかし,それらのモデルは有限期間モデルであるという欠点がある。
 本稿では,デフォルト均衡の考え方を取り込んだシンプルな時系列モデルを構築し,その理論的特性を考察した。本モデルはGoodhart, Osorio and Tsomocos [2009]とMartinez and Tsomocos [2011]のモデルをベースとし,それらのモデルに生産の概念と設備投資の概念を整合的に組み込んだことが特徴である。
 モデル分析から得られた主な結論は以下のように整理することができる。第1に,民間経済主体の最適行動から,各経済主体の戦略的デフォルトが経済の均衡現象として存在する。第2に,家計と企業の最適行動から期待を考慮したIS曲線と物価の粘着性を考慮したニューケインジアン・フィリップス曲線(NKPC)が導出され,本モデルはニューケインジアン・モデルの特性を備えている。
 第3に,均衡状態において,フィッシャー効果の成立,デフォルトの可能性による正の金利の支持,自明ではない貨幣数量説の成立,金融政策・財政政策・金融上の規制政策の実体経済に対する非中立性,といった特徴が見出せた。特に,フィッシャー効果の成立に関連して,民間経済主体の債務不履行に係る伝染効果の相違が理論的に示されたことは,金融不安定性を考察する上で注目される特性である。つまり,金融機関,特に銀行の脆弱性は,企業の脆弱性より広範な金利の上昇を促し,したがって経済に及ぼす悪影響も大きいことが示された。

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