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証券経済研究 第78号(2012年6月)

欧州中央銀行における不均衡問題

伊豆久(久留米大学教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕
 統一通貨ユーロの導入以降,ユーロ圏の金融政策はECB政策理事会によって一元的に決定されてきた。しかしながら,そのオペ(資金供給)はユーロに加盟する各国中央銀行によって行われており,オペの結果,中央銀行間で資金の供給額に差が出ることがある。それは,市場における資金需給と総合されて,各中央銀行のECBに対する債権・債務となって現われる。通常時であれば,それは大きな金額とはならないが,リーマン・ショックとそれに続く欧州危機への対応の中で,中央銀行のバランスシートにおいて非常に大きなウエイトを占めるものとなっている。ドイツ中央銀行のブンデスバンクでは,総資産のおよそ5割がECBに対する債権であり,反対にギリシャ中央銀行では総負債の約6割がECBに対する負債である(2010年末)。
 こうした不均衡の原因は,市場レベルでは①危機に陥った国の銀行が市場で資金を調達できず,中央銀行の資金供給に依存するようになったこと,②対照的に,ドイツでは「質への逃避」によって資金流入が続き,銀行が資金余剰の状態となっていることである。他方,ユーロシステムの側では,③危機の深化に対応して,従来の金利入札方式を固定金利・全額供給方式に変えるとともにオペの適格担保基準を緩和し,さらに④アイルランド中央銀行では,ECB政策理事会の決定とは別に独自の流動性供給(ELA)も行っている。そのため,⑤危機国の中央銀行では資金供給額が急増する一方で,⑥ドイツなどでは応札額が非常に少なくオペ残高は大幅に減少している。こうした状況が各中央銀行の対ECB債権・債務の増大という不均衡をもたらしているのである。
 さらに考えれば,この不均衡は,ユーロ圏における財政の不統一(の下でのアンバランスな財政赤字)を背景とし,また,その形を変えた反映でもある。すなわち,危機国の財政の改善が進まず他国からの財政支援も十分でないことが,国債価格の暴落を通じて危機国金融機関の経営を危うくし中央銀行資金への依存を強いているのであり,その一方で通貨は統一されていることから,財政支援を肩代わりする形で,ドイツ等の中央銀行は危機国中央銀行への債権を引き受けざるをえないのである。しかしそれは,問題の解決というより先送りであり,債権国側のインフレと債務国側のモラルハザードいう新たな問題を生み出しつつあり,ひいてはユーロ解体の可能性を高めていると言っても過言ではないであろう。

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