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証券経済研究 第76号(2011年12月)
Dodd&Frank法における内部告発者報奨金プログラムとその資本市場規制的意義
柿崎環(東洋大学法科大学院教授)
〔要 旨〕
2010年米国Dodd&Frank法により導入された内部告発者報奨金プログラムとは,内部告発者からSEC等に提供された独自の情報を契機として,SEC等により100万ドル以上の制裁金を課す法執行が実施された場合,当該制裁金のうち10%から30%の範囲で,当該内部告発者に対して報奨金を付与する制度である。同制度の導入により最も懸念されたのは,内部告発者が,企業内のコンプライアンス窓口等での不正告発ではなく,報奨金を目当てに最初にSECに通報することになっては,これまで企業内で促進されてきた倫理コンプライアンス教育,ひいては企業コンプライアンス体制の機能が阻害されるのではないかという問題であった。それゆえ,実務界では,内部告発者報奨金付与の条件として,SECへの通報以前に企業に対して通報を求める社内通報前置主義を採用するよう批判を強めた。しかし,SECは最終のSEC規則においても,企業内コンプライアンスの向上に貢献する修正を施したものの,社内通報前置主義を採用しなかった。その理由は,同報奨金制度が,あくまで資本市場規制の一環として,SECが早期に企業内の不正情報を入手し法執行を迅速かつ柔軟に実施する手法として位置づけられる点から導かれる。さらには,米国の他のエンフォースメント制度(連邦量刑ガイドライン,訴追延期合意等)の運用と相まって,企業に対し,より充実したコンプライアンス体制の改善を迫る契機として機能する点にも本制度の意義が認められる。
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