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証券経済研究 第73号(2011年3月)

アメリカの州・地方債市場における税額控除債の可能性

野村容康(獨協大学准教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕
 近年,アメリカの州や地方自治体では,社会資本整備等を目的とした新たな財源調達の手段として「税額控除債(tax-credit bond)」による起債が可能となっている。この場合,税額控除債の保有者には,利子の受取りの代わりに,一定の金額を連邦所得税額から控除することが認められる。税額控除債は,現行の非課税債と同様に自治体の資金調達に対する連邦財政補助としての役割を担うが,伝統的な利子非課税制度に伴う,補助金としての非効率性と不公平性の問題をともに解消する理論的可能性を有している。
 現実の税額控除債については,1997年にその原型となるQZAB(Qualified Zone Academy Bonds)が創設されて以来,これまでいくつかの種類が特定の政策プログラムに基づき,多くの州や地方自治体によって採用されてきた。しかし,こうした初期のタイプは,制度改定に伴う不確実性や共通ルールの欠如などの問題により,市場関係者に十分に受け入れられず,必ずしも連邦政府の意図した成果を達成しなかったといえる。
 そうした状況に対して,2009年に導入された,直接支払い(発行者への直接補助金)タイプの税額控除債であるBAB(Build America Bonds)は,プログラム実施期間における長期地方債発行総額の4分の1を賄うなど,アメリカの地方債市場において一定の地位を占めるに至った。従来の税額控除債と異なり,BABが活況を呈した背景には,発行体にとってその実質的な補助金の価値が高かったことに加え,外国投資家や年金基金などの非課税投資家にも市場が拡大したことが考えられる。実際に,BABは発行体に対し,非課税債に比べて大きな金利負担の節減をもたらすことになった。
 理論的にBABの仕組みは,地方債市場の不安定性を軽減する効果をもつ課税債選択制(Taxable Bond Option)として位置づけることが可能である。今後は,BABが供給側にとって非課税債を補完する重要な選択肢として定着するように,両者の起債条件を揃えるなど制度の共通化を進める必要がある。同時に,市場の信頼性向上とその拡大を図るために,他の個別プログラムに基づいた既存の税額控除債についても,直接支払いタイプに統合するなどにより,できるだけ簡素で統一した枠組みを確立することが求められる。

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