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証券経済研究 第71号(2010年9月)

金融商品取引法157条利用の可能性について
─米国証券取引所法10b-5との比較から─


萬澤陽子(当研究所研究員)

〔要 旨〕
 金融商品取引法157条は,広く不公正な取引を規制する一般条項である。このような一般条項は,証券取引法制定当初から存在してきたものの,ほとんど利用されてこなかった。これに対して,当該条文のモデルとなった,米国の一般条項である証券取引所法の10条(b)項およびその下のSEC規則10b-5は,多く援用され活用されてきた。この相違は何に求められるのか。本稿では,それぞれのルールが禁止する対象の明確性が差異を生じさせてきたとの立場をとる。すなわち,米国の一般条項の禁止対象である「詐欺」がどのようなものかは,連邦証券取引法制設立前の判例法の発展によってある程度明らかになっていたのに対し,我が国の一般条項の禁止対象である不公正取引については法令によっても判例によってもほとんど明らかにされてこなかったのであり,そのことがそれぞれの一般条項の役割を大きく変えたのだと考える。
 では,どうすれば金商法157条が利用されるようになるであろうか。本稿は,米国のように,一般条項が禁ずる対象──我が国でいえば「不正行為」の意味するもの──を明らかにすることを提唱する。米国のように判例法主義を採らない我が国では,法令で明確化することが現実的となろう。近年問題となった村上事件のように,証券市場のように劇的に変化し続ける環境においては,既存のルールで対処することが困難な状況が必ず生じる。そのための一般条項だと思われる。対象の明確化によって,包括的網羅的に市場を規制するという本来の機能が発揮されることが望まれる。

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