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証券経済研究 第70号(2010年6月)

粘着的配当政策の合理的背景とその実証

宮川壽夫(大阪市立大学大学院専任講師)

〔要 旨〕
 従来,配当支払は企業の無駄なキャッシュを社外に流出することによって経営者の裁量を狭め,エージェンシーコストを削減する効果があると理解されることが多かった(Jensen [1986]のフリーキャッシュフロー仮説)。しかし,人的資産など特殊性資産が企業価値に与える影響を考慮すると,利益に応じた配当支払によって経営者裁量を狭めることは株主にとって必ずしも合理的結果をもたらすとは限らない。なぜなら株主が経営者とエージェンシー関係を締結し,経営者の裁量に委ねることによって結合効果が生まれる可能性が考えられるからである。
 本稿は人的資産の努力インセンティブという視点からエージェンシー関係がもたらす結合効果に着目し,フリーキャシュフロー仮説では説明できない現実を取り上げる。分析においては,宮川[2009]で行われた検証結果を参考にし,人件費への投資が大きい企業は人的資産の努力インセンティブが重要であるため企業の収益性に連動した配当ではなく粘着化するとの仮説を検証する。仮説の構築はMyers [2000]による外部株主モデルに依拠したものである。
 本研究の貢献は,エージェンシー関係の負の側面(エージェンシーコスト)を抑制する手段としての一面的配当観から,エージェンシー関係の便益面(結合効果)をも維持・促進する効果としての配当という両義的な配当分析を可能にしたことである。

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