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証券経済研究 第58号(2007年6月)

英国の対外投資ポジション

小林襄治(専修大学教授・当研究所客員研究員)

〔要 旨〕
 1990年代末にイギリスの対外投資ポジションはマイナスとなった。言い換えれば,イギリスは対外債務国となっている。経常収支でも1980年代半ば以降に毎年ほぼ対GDP比2%程度の赤字を記録している。アメリカは80年代半ばに対外債務国化し,とくに21世紀になって経常収支赤字の拡大が続いている。かつての資本輸出大国の英米両国が資本輸入国に転じているのである。だが,債務国化し,資本輸入国となった両国の経済パフォーマンスは良好である。イギリスでは債務国化以後の投資所得の伸びも大きい。
 このような状況は,一部に経常収支赤字や対外投資ポジション(資産・負債残高)の持続可能性の議論を引き起こしている。本稿では,世界の対外投資残高の歴史的推移を確認するとともに,イギリスに即して,近年における経常収支動向,対外投資ポジションの構成(直接投資,証券投資,銀行部門)を検討し,日米と比較した特徴を確認する。イギリスでは,経常収支赤字が継続する中で対外資産と対外負債はともに急増しているが,純負債額の増加は累積経常収支赤字の半分程度の増加にとどまっている。また,かつてのようにポンドが下落し続ける状況でなく,国際収支が問題とされることも少ない。『イングランド銀行四季報』に載る諸論文では,時に債務国化への懸念に対処するものもあったが,最近ではむしろ,イギリスの対外直接投資収益の高さと,為替相場(ポンドが下落すると対外投資の価値増加)や株式相場の変動による対外ポジションの調整効果を指摘し,現状(対GDP比2%程度の経常赤字,対GDP比各4倍程度の対外資産・負債,対GDP比20%程度の純負債)の持続可能性に楽観的な見方が強い。この論理を否定する必要はないが,対外直接投資や対外株式投資におけるキャピタルゲインへの依存が強まれば,時にバブルにともなう思わぬ打撃をこうむるかもしれないし,対外直接投資の収益性の高さがいつまでも続く保証はない。また,対外直接投資の収益性の強調は,21世紀になってからの対外直接投資の伸びの停滞やシティの国際金融業務を中核とする対外資産・負債構造と整合的でない。

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