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出版物・研究成果等

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証券経済研究 第57号(2007年3月)

わが国国債の金融市場における位置づけ

岩井宣章(日本証券業協会 常任監事)

〔要 旨〕
 国債は,わが国金融市場において量的に圧倒的規模を有しているだけでなく,金融市場の機能発揮にも大きく貢献している。国債の価格は,現物に対する需給関係だけでなく,市場参加者の金利感を直裁に反映する傾向の強い国債先物市場や近接する金融市場商品との裁定関係が強く働く下で合理性の高い価格が形成されている。合理性の高いベース(リスクフリー)金利が提供されることで社債等各種民間金融商品の価格付け(金利水準)において,当該金融商品の信用度の差異等の個別性を適正に反映した価格付けを容易にし,結果として各金融商品の取引価格の適正化に貢献している。また,国債は多様な売買仕法や取引制度の整備が進展しており,そのことによって国債の機能が拡張されている。国債を中心とする条件付売買や現金担保付債券貸借取引は短期資金取引の機能を果たしており,しかも現金担保付債券貸借取引は短期金融市場で最大のシェアーを占めるまでに至っており,先物取引等の派生商品取引については国債の価格変動に対するリスクヘッジだけでなく,他の金融商品におけるベース金利部分のヘッジ手段等としても活用されている。また,リスクフリーの国債は管理面の容易さ等から,担保活用の利便性において他の金融商品を圧倒している。国債は担保の活用面からも金融市場全般の機能発揮に大きく貢献しており,しかも近時国債の担保ニーズは金融市場参加者の多様化や金融技術の発達を利用した複雑な金融商品のリスク軽減手段として高まる傾向にある。また,今日では受渡し決済制度面の整備進展もあり,金融機関にあって国債は取引後の支払い完了性が極めて高い金融商品になっており,保有資産の中では準通貨に近い位置づけを得ている。
 このことは仮に国債残高の大幅減少や一層の財政状況の悪化等によって国債の取引が低調になり価格形成に歪みが生じれば,わが国金融市場の発展の制約になる可能性も示唆できなくはないことでもある。とはいえ,更なる国債発行の増加を求めることはできない。わが国の財政状況が悪化していることも事実であり,わが国の金融市場が国債に過度に依存していることも事実である。今後のわが国経済,わが国金融市場の発展を展望すると,少なくとも次の点に留意しておく必要があろう。一つは,今後とも借換え債を中心に当面,高水準の国債発行は避けられないことから,引続き国債が提供している価格の合理性を高める方向で更なる国債市場整備が継続されるべきであることである。いま一つは,いずれ民間部門の資金需要が回復し,信用度が向上する中で過度に国債に依存する金融市場構造が是正されていくことが望ましく,その際に現在国債が金融市場において果たしている機能をうまく民間部門の金融商品に代替させていくことであり,また国債を活用することによって得ている効率性を他の金融商品においても金融技術を利用して追及していくことが必要であることである。

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