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証券経済研究 第53号(2006年3月)

英米当局のソフトダラー規制をめぐる動向

漆畑春彦(みずほ証券シニアマネージャー・上級研究員)

〔要 旨〕
 「ソフトダラー」は,投信運用会社などの投資家が,調査レポートなど証券会社から受けるサービスの対価を現金で支払わず,有価証券売買執行手数料を通常より上乗せして支払う取引慣行をいう。上乗せ分はファンド資産が負担するが,この数年ソフトダラーの濫用が目立ち,運用担当者のコンピュータや旅券,オフィス家具・備品の購入など運用目的以外の財・サービスに充てられるケースが増えている。ファンド資産の負担増に伴うパフォーマンス悪化も懸念されている。
 米国などではソフトダラーの使用は違法ではないが,それに伴い運用会社とファンド投資家間の利益相反が生じ得る可能性や,顧客資産が負担する手数料で運用会社が得るサービスがどの程度運用に貢献するか不明瞭な点が指摘されてきた。不透明な慣行を問題視した英FSA,米SECといった欧米当局は,ソフトダラー規制導入へのスタンスを明確にし,相次ぎ規制案を公表している。現在示される規制案は,ともに顧客資産からソフトダラーを支払うことで得られる「売買執行」,「リサーチ」と見なされる財・サービスを明確に定義し,売買取引に参加する運用会社や証券会社の義務を規定している。近い将来,英米において正式にソフトダラー規制が導入される可能性は高い。
 英米では規制スタンスや議論の進捗に若干の違いが認められる。ともにソフトダラーそのものは禁止していないが,FSAが運用会社の支払う手数料の詳細開示を求めているのに対し,SECは開示を義務付けていない。また,FSAは,2005年7月に手数料の詳細開示を含む規制を導入済であり,さらに個人向け投資商品のガバナンス問題に対し一定の対策を提案している。FSAが他に先行する形で,厳格で広範なソフトダラー規制を導入する可能性が高い。
 一方,ソフトダラー規制への対応としては,米金融機関の厳格さが際立っている。例えば,フィディリティ・インベストメンツは,ソフトダラーの支払いで証券会社から得られたリサーチ,売買執行の対価を明確に分け,リサーチは証券各社の質に応じ,対価を直接支払う方式を採用し始めた。
 新規制でソフトダラーの内容が明らかとなり,運用会社が証券会社を機能別に使い分けるようになれば,運用会社は支払手数料を削減し,パフォーマンス向上が可能となる。一方,証券会社はリサーチなどサービスごとの収益・コスト構造が明確となり,それが業界の再編の遠因になる可能性が出てきている。  本稿は,英米各々におけるソフトダラー規制をめぐる経緯,2005年に公表された規制案を整理した上で,規制の意義や導入後に想定される影響について評価するものである。

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