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出版物・研究成果等

証券経済研究 第45号(2004年3月)

EU証券市場における代替的取引システム規制の試み

椎名隆一(元エムティーエスジャパン証券管理部長)

〔要 旨〕
 既に1970年代から「市場間競争」が大きなテーマとして扱われていた米国証券市場では,NASDAQにおける株式注文執行に無視し得ない影響を与えていた新興取引システムである代替的取引システム(ATS)がもたらす規制上の問題について市場関係者の間で多くの議論や試行錯誤が重ねられてきたことは広く知られている。しかし,EU域内の証券市場でも1990年代末頃から徐々にATSの問題が認識され始め,2002年11月に欧州委員会が公表した投資サービス指令(ISD)改定案にはATSとほぼ同義のマルチラテラル・トレーディング・ファシリティー(MTF)の概念が新たに盛り込まれているが,こうしたATSの規制導入に関する議論がここ数年にわたりEU内で展開されていたことはこれまであまり日本に紹介されていない。元来,EU証券市場では株式取引においては強固な取引所集中原則と,既存取引所自身の電子化の進展により,新興の取引所外電子プラットフォームであるATSが活躍する余地は米国に較べ限定的なものであると考えられていた。しかし,2000年の時点で通信情報テクノロジーの進歩を背景として既に20件以上のATSがEU域内で営業されている事実や,伝統的な店頭取引が中心の債券市場やスワップ取引などでは,ATSは大きな発展の可能性を秘めていることから,EUで1990年代末から開始されていた証券取引規制の抜本的見直し議論の中で,投資家保護や市場の信認(integrity)の観点でその規制のあり方が重要なテーマの一つとして位置付けられ,EUの規制当局者及び市場関係者の間で活発な議論が展開されたのである。本稿は,英国のFSAが2000年1月に公表した証券取引インフラ全般の規制のあり方に関する報告書に端を発して,その後EUレベルに議論が持ち越され,欧州証券委員会フォーラム(FESCO)やその後身の欧州証券監督者委員会(CESR)のイニシアティブによってATSレギュレーションが策定されていく過程や,最終的にEUの全般的な証券取引規制の指針を示すISDの改定作業にその議論が統合されていく経緯を紹介し,ISD改定案で示されたMTFの運営規制を巡る議論の背景と意義を明らかにする。

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