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出版物・研究成果等

証券経済研究 第44号(2003年12月)

米国STPの近況と課題(下)

日向康一(大和総研新証券システム開発本部主任研究員)
伊藤慶昭(大和総研NY情報技術センター主任研究員)

〔要 旨〕
 米国証券業界ではビジネス・オペレーション上の決済リスク軽減を達成すべく,最終的にはDVP(証券と資金の同時受渡し)を取引日当日に行うことを目標にしている。これまでに証券業界では1995年6月に決済期間をT+5からT+3に短縮しており,目標に向けて着実に歩んできた。この一連の流れの中で,市場関係者は翌日決済という到達点を青写 真に描いてT+1プロジェクトを進めてきたが,景気低迷やBCP(災害時における事業継続対策)に代表される重要課題が浮上する中,SIA(米国証券業者協会)は業界全体としての優先順位 を考慮した結果,2001年7月にT+1プロジェクトを一時凍結した。
 T+1プロジェクト推進時は,取引の翌日に決済を完了させることが市場参加者の共通 目標であったが,STPではそれぞれ市場参加者でその定義や意味合いが異なってくるため,様々な目標が誕生することとなった。SIAでは大枠として,1)取引情報伝達の自動化,2)取引照合の迅速化,3)市場間リスクの軽減,4)商品やサービス間の連携と効率性の拡大,5)機関投資家における取引プロセスの再構築という5項目を掲げ,実現に向けて注力している。
 しかし目的がT+1からSTPに移行したことで,各分野・市場参加者毎で対応の温度差が一層強くなっている。特にバイサイドではSTP推進に対する動機付けが困難としている上,業界としての意思統一が図りにくいという組織構造的な問題を抱えており,このような温度差を埋めていくことが大きな課題となっている。この課題に対し,SIAではバイサイド重視の方向性を明確にした形でSTP小委員会の再編を実行しており,状況は徐々に改善されつつあると言える。
 さらに最近のSTP運営委員会の姿勢は,従来のように一気に最終目標を目指すのではなく,現実的な対応項目から確実に達成する傾向にあり,各プロジェクトが進展しSTP化が現実味を帯びてきたことを示している。安易な妥協と変更はすべきでないものの,各分野で個別 の目標が設定された現在においては,各テーマや項目について,それぞれの立場を考慮しながら優先順位 付けを行っていくことが大変重要になっている。したがって今後とも,各小委員会が発表するプロジェクトの進捗状況と計画に注目していく必要がある。

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