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出版物・研究成果等

証券経済研究 第41号(2003年3月)

国債残高の累増をめぐって―資金循環・国債市場・金融政策の視点から―

石田定夫(元明治大学教授)

〔要 旨〕
 国債の大量発行,国債残高の累増は,デフレ克服に取り組むわが国経済において不可避の問題である。前稿「デフレ経済と資金循環」(本誌38号,02年7月)において,1998年以降のデフレ局面では銀行貸出の減少を主因に資金循環の規模が縮小したこと,そのなかで国債発行額が年々大幅に増大し国債残高の累増が目立ってきたことを指摘し,これは「国債新時代」ともいえる異常な状況であると述べた。
 この小論は前稿の延長線上の作業であり,国債残高の累増問題をデフレ局面の資金循環の枠組みのなかで改めてとりあげ,とくに現在の量的緩和政策の影響も含めて考察するものである。再考察の意図のひとつは,今次デフレ局面98〜01年度の資金循環の態様を,円高ブーム期86〜90年のそれと対比し,デフレ経済下の国債増発の状況を浮き彫りにし,あわせて経済全体のバランスシート図を素描することにある。バランスシート図は「国債新時代」の金融の全体図の理解に役立つであろう。小論のいまひとつの意図は,現在の量的緩和政策の国債市場,資金循環への影響と問題点を検討する点にある。そこではマネタリーベース増加の影響と日銀の国債保有高の増加の問題が考察の主対象になる。
 2002年9月末国債残高は504兆円,その85%(430兆円)は金融部門の保有である。そのうち民間・公的金融部門の保有高はともに175兆円でほぼ肩を並べ,日銀の保有高は80兆円であり,家計部門は13兆円である。01年3月以降1年半の間,国債残高増加96兆円の動きをみると,そのうち60兆円が公的金融と政府(社会保障基金)の保有増加になり,29兆円が日銀の買いオペによる保有増加である。家計部門の増加は3兆円にとどまる。このように公的部門の増加と日銀の買いオペの比重が圧倒的に大きい。今後,国債残高の増加が予想される折,この引き受け消化の状況,その資金循環全体とのバランス関係には注目を要する。
 日銀の量的緩和政策は国債買いオペの増額を軸として実施されており,日銀のマネタリーベースの供給は潤沢に行われてきた。買いオペ増額は市場に好材料となり,国債利回りは超低水準で推移してきている。しかし銀行貸出・マネーサプライの供給は伸びず,その実体経済活動への効果はあらわれていない。量的緩和のもとに国債市場は本年に入り「過熱」的様相(利回り0.8%台)さえ呈するまでになったが,銀行の資金仲介機能は麻痺しその効果があらわれていない。これは「デフレの罠」である。日銀勘定では銀行券発行高と当座預金残高(マネタリーベース)の増加の見合い資産として国債保有高が増加し,あたかも「国債本位制」の体裁を呈している。折から「財政金融一体化」への論議が強まっており,政策効果への期待が強く求められている。しかし,そこには多岐にわたる論点の整理が必要である。

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