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出版物・研究成果等

証券経済研究 第40号(2002年12月)

金融システムの経済的機能と中国の金融改革

王京濱(東京大学IML中核的研究機関研究員)

〔要 旨〕
 世界各国の金融システムはそれぞれの国の発展経路に適応して形成されているため,常にあい異なる特徴を呈している。それゆえに,国際比較研究において制度上の違いが強調されるあまり,一国の金融制度は往々にして直接的に他国の制度変革を促すことができなかった。蝋山昌一[1982]はこうした国際比較研究の限界を指摘し,「金融の経済的機能」という概念を提示した。つまり,比較研究は形式上の制度に対する考察に止まらず,金融システムの果たす効率性についても視野に入れねばならない。そこでは,「金融の経済的機能」は「貸手と借手それぞれの互いに相反する欲求を全体として調整すること」と「社会的相対価値ないしどの機能が重要かの順序付け」という「次元の異なるいくつかの種類」(蝋山[1982],31頁)と定義された。しかし,それに関しては更なる具体化がされておらず,その後の研究蓄積は見せていない。本稿では,上の蝋山氏の定義に従い,金融システムの「経済的機能」について資本コストおよび企業統治等の点において定量化し,効率面における金融システムの国際比較を可能にする。
 本稿では多くの先行研究について考察を行った。その結果,先進諸国の金融システムは「形」の上において異なっているにもかかわらず,果たしている経済的機能は,似通っていて,究極的に市場原理そのものに強く規定されている,という結論に至った。この結論は先進国の金融制度を参考に金融改革を行う発展途上国にとってきわめて重要な意味を持つ。
 中国はそうした発展途上国のひとつである。「金融の経済的機能」の視点からは中国の金融改革において「市場経済発展促進的アプローチ」(石川[1997])はきわめて重要であることを示唆する。本稿では現在の中国金融システムはいかなる発展経路で形成されたかをめぐって,中国の金融改革における金融組織の再編,金融調節方式の変革および投融資制度改革の三つの側面より検討し,その流れと経路依存性の特徴を整理する。また,中国金融システムの経済的機能である資本コストとコーポレート・ガバナンスについて考察した結果,先進諸国と同様の特徴が見られた。さらに実質負債コスト,実質株主資本コストと実質総資本コストの三者がともに下落しつつ,収斂する傾向にあった。コーポレート・ガバナンスにおいては,上海株式取引所に上場する製造業企業を対象に1997年度と2000年度について回帰分析を行った。推計結果は中国の金融システムが確実に先進諸国に見られる方向に変わりつつあることを示している。1998年以降において,市場化の進展は金融システムの経済的機能の先進諸国への接近という図式を読みとることができると考える。

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