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出版物・研究成果等

証券経済研究 第40号(2002年12月)

市場構造と産業構造―株式市場間競争の背後―

熊野剛雄(専修大学名誉教授)

〔要 旨〕
 日本における株式市場間競争はアメリカにおけるような多様なものではなく,単純な新規公開会社獲得競争にすぎない。又アメリカにおける市場の分裂と競争の背後には機関投資家の成長があるが,日本に於いては戦後形成された持ち合いを中心とする株式の法人所有が1990年以来の長期の不況を通じて解消過程にあり,本格的な機関投資家所有の形成は今後の発展にまたれる。しかし将来に於いては日本に於いても機関投資家の成長は確実であり,アメリカにおけるような問題が発生するであろう。
 又産業構造の変化はアメリカに於いても日本に於いても進行しており,新しい産業を担おうとするベンチャー企業の株式の発行と流通を,どのような市場で取り扱うべきかが問題となる。
 日本では第二次大戦後,自然発生的な市場は規制され,取引所市場に収容するか廃止するかの方策がとられた。そして売買仕法の面ではorder-driven化の方向に整理するという考え方が取られたように見受けられる。
 order-driven marketは確かに優れた売買仕法であるが,問題なしとしない。本来完全にディーラー行為を排除することが困難であるうえに機関投資家の資力が増大し,注文が大口化するにつれ,市場に現われた注文を整理するだけで価格優先,時間優先の市場を作り出し,公正な価格を発見することが困難となる傾向がある。ここに店内化,upstairs化の根拠がある。
 又この裏返しとしてディーラー・マーケットも積極的に評価されてよい。現在先進諸国の経済は歴史的に転換期にあり,19世紀以来証券市場を必要とし,同時に証券市場の基盤となってきた重化学工業の長期設備資金需要は縮小している。そして経済の迂回化,サービス化,IT化,そして金融投機化はアメリカのみならず日本に於いても進行するものと思われる。そのような産業の中からあらわれる,担保も過去の実績もない新興企業を迎え,育てて行くのは店頭市場,ディーラー市場であるべきであろう。

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