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出版物・研究成果等

証券経済研究 第38号(2002年7月)

「つなぐ通貨」としてのユーロとその国際通貨化について

田中素香(東北大学大学院教授)

〔要 旨〕
 マーストリヒト条約に端的に示されているユーロの設計の特徴は,「守る通貨」,「安定と活性化の通貨」,「政治的通貨」そして「つなぐ通貨」の4つに集約することができる。単一通貨によって域内から為替相場を除去することによってヨーロッパを域内為替相場の混乱から守り,また経済の安定と活性化をはかる―これがユーロの基本思想である。「政治的通貨」としては,EUによる統一ドイツの無条件承認と引き替えにマルク放棄を定め,また物価安定志向,フランクフルトへのECBの設置などが条約に取り込まれた。これらの特徴はユーロが「内向きの通貨」として設計されたことを示している。とりわけ「つなぐ通貨」という性格はユーロに固有であって,ドルとの対抗においてハンディキャップとなる。2001年4月に実施された中央銀行とBISによる外為取引調査を分析すると,ユーロは為替媒介通貨としてマルクに劣っており,マルクの消滅によってドルの為替媒介通貨としての地位が高まったことを示している。この理由として,ユーロ域を取り囲むユーロ圏の経済力の貧弱さに最大の理由を求めるべきであるが,「つなぐ通貨」としての側面も関与している。ユーロの出現によって2極通貨体制ができるとか,ドルに匹敵できる国際通貨が出現すると予想した多数の見解は根本的な反省を余儀なくされており,この現実を踏まえたユーロ論の確立が必要となっている。

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