トップ  >>  出版物・研究成果等 >> 証券経済研究 2002年度 >> 第37号(2002年5月)

出版物・研究成果等

証券経済研究 第37号(2002年5月)

米国機関投資家の取引コストと取引システム

三木まり(当所大阪研究所研究員)

〔要 旨〕
 機関化の進展した米国証券市場において,近年,機関投資家は取引コストの低減へのニーズを強めている。その要因としては,機関投資家の受託者責任の観点から最良執行義務遵守の議論が高まってきたことに加え,機関投資家の運用資産の巨大化や運用報酬の低下の中で機関投資家が期待リターンの実現における取引コスト低減を重要な課題とみなすようになったことが挙げられる。さらに,取引チャネルの多元化や取引手法の多様化によって,機関投資家は明確なコンセプトのもとで運用を行う一方,執行戦略の重要性を認識するようになった。また,取引コストは,取引システムと深い関連性のあるコストである。
 取引コストと取引システムの関連性を検討するために,取引コストの構成要素別に分析を行った。その結果,機関投資家の取引コスト低減化の対象としては,とりわけ市場に発注して見なければ分からない暗黙のコストであることが確認される。
 取引コストの構成要素別に取引システムの関連性を検討すると,今日の取引システム間の競争を規定してきた背景的要因として以下の3つが挙げられる。まず第1に,マーケット・インパクトの観点からより高い流動性の要求,第2に,機会コストの観点からより高い執行率の要求,第3に,タイミングコストと価格インパクトの観点から市場の匿名性の要求とより細かな価格の区分であった。
 以上の3つの充足程度が,伝統的取引所取引の形骸化や取引所外取引の増減など,今日の市場構造を規定する背景的要因であったと思われる。ただし,取引コストの各構成要素が流動性や取引に要する時間を媒介に密接に関連しているため,トータルコストとしての把握やコスト・ベネフィットの観点からのアプローチが必要である。

お探しの出版物が見つからない場合は「出版物検索」ページでキーワードを入力してお探しください。