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出版物・研究成果等

証券経済研究 第36号(2002年3月)

ターム・プレミアム・パズルについて―理論モデルによる一考察―

須藤時仁(当所東京研究所主任研究員)

〔要 旨〕
 本稿では,家計が国債を需要する意義を明示的に考慮したモデルを分析することによって,ターム・プレミアム・パズルを理論的に解明することを試みた。具体的には,代表的家計の効用関数に短期債の保有量を組み込む形で拡張した消費資産価格モデルに基づいてリスク・プレミアムを導出し,その長期均衡および短期経路を分析した。モデルでは,短期債を保有することが家計の効用へ直接に影響を及ぼすことを前提としている。家計による貨幣の保有目的が短期的および長期的な流動性を確保することであり,さらに,短期的流動性を目的とした貨幣(具体的には要求払い預金,満期の短い定期性預金など)を金融機関が流動性の高い安全資産である短期債に変換していると考えれば,短期債を貨幣の代替とみなして効用関数に組み込むことは正当化されよう。
 モデル分析から得られた理論的結論は,短期債の保有量が家計の効用に影響を与える(金融機関を通じた影響であろうとも)場合には,ターム・プレミアム・パズルが解決される可能性が高いということである。つまり,長期均衡では,リスク・プレミアムが正となるためには短期債に係る限界効用が正となることが必要十分条件であり,さらに実質消費に係る限界効用に対して短期債に係る限界効用が大きくなるほどプレミアムは上昇する。一方,短期経路においては,短期債に係る限界効用が正となることはリスク・プレミアムが正となるための必要条件ではあるが十分条件ではない。ただし,という特殊な形の効用関数と,そこで家計の相対的危険回避度γが0.5超であるという通説的な実証結果を前提にすると,γに対して効用に係る短期債の弾力性αが大きくなるほど,実質消費と短期債保有量の系列を所与としたときのリスク・プレミアムが正となる可能性も高くなる。この結果は,γを一定としたとき,実質消費に係る限界効用に対する短期債に係る限界効用の上昇を含意することから,長期均衡における分析結果と整合的である。

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