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出版物・研究成果等

証券経済研究 第34号(2001年11月)

マレーシアにおける株式市場の発展と貨幣需要

上坂豪(法政大学非常勤講師)

〔要 旨〕
 マレーシアの株式市場は1980年代後半以降急速に発展し,時価総額ベースで東・東南アジア地域で最大規模にまで成長した。成熟した株式市場の存在は,投資家がポートフォリオの選択を行う際,株価の動向に十分な注意を払うことを強いるであろう。貨幣もまた一つの金融資産であり,その保有量の決定も資産選択の一環として決定されると考えるならば,株式市場が成長するにつれて,貨幣需要が株価変動の影響を受けるようになると推測される。それゆえ,株価変動の影響を考慮しない標準的な貨幣需要関数の定式化の下では,安定した推計結果を得ることが不可能となるであろう。そこで,株式市場の急成長が貨幣需要の安定性に与えた影響を検証するために,貨幣需要関数の推計を行った。貨幣需要関数の説明変数に実質株価を組み入れた定式化では,共和分の存在は示唆されたものの,共和分ベクトルにおける実質株価の係数は有意ではなかった。一方,実質株価を考慮しない標準型貨幣需要関数の定式化においては,安定的かつ統計的に有意な推計結果が得られた。したがって,マレーシアにおける株式市場の急成長は,貨幣需要の不安定化をもたらすものではなく,貨幣需要は依然として株価と独立に決定されていると考えられる。このような結果は,マレーシアの株式時価総額の急増は国営企業民営化プログラムの実施による新規発行額の増大によるところが大きかったこと,またマレーシアの株式売買回転率は近隣諸国に比べ低く,株式流通市場における取引は低調であったことから説明できるものと思われる。さらに,流通市場の低迷は,発行済み株式の少なからぬ部分が政府系金融機関によって保有されていること,またマレーシアにおいては企業間の株式持合が他のアジア諸国に比べて広く行われていることが一因であると考えられる。

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