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出版物・研究成果等

証券経済研究 第33号(2001年9月)

オンライン取引の規制について

清水葉子(福井県立大学講師・当所客員研究員)

〔要 旨〕
 インターネットの普及をはじめとする情報・通信技術の発展は,証券取引のあり方に様々な影響を及ぼしている。情報・通信技術は,第一に証券市場の取引執行プロセスを人手を介する立会場からコンピューター・システム上に移行した。証券取引所の会員制度・上場制度・自主規制などの諸制度は,人手を介した取引執行という従来の技術条件と密接に結びついていたため,市場の技術条件の変化は同時に取引所諸制度の変質をもたらした。現在世界の主要証券取引所では,株式会社化などの大きな構造変化が生じている。
 情報・通信技術の発展は,第二に証券市場へのアクセスのための技術条件も大きく変えた。インターネットを利用したオンライン取引の普及は,営業員を介した注文執行をシステム化によって単に代替したという表面的な変化にとどまらず,証券会社の対顧客関係に質的な変化を生じさせている。まず,インターネットは情報の伝達・加工を飛躍的に容易にしたため,証券会社がオンライン上で提供する情報サービスの形式が多様化し,一般的な情報であるのか顧客属性に基づいた特定の投資勧誘であるのかの判断が難しいものが増加している。証券会社がオンライン上で提供する情報に投資勧誘としての責任をどこまで持つべきであるのかが分かりにくく,証券会社の対顧客義務のあり方に影響を与える可能性がある。
 また,オンライン取引によって顧客の取引注文を即時に執行市場へ回送することが可能になった結果,証券会社の最良執行義務内容にも変化が見られる。証券会社は従来であれば価格改善面で最良執行の努力をすればこと足りたが,オンライン取引の普及によって執行のスピードや執行の確実性など多様な要素が重視されるようになっている。
 さらに,オンライン取引の普及は,個人投資家のリアルタイム価格情報の利用を大きく増大させた。現在のリアルタイム価格情報の利用料は,個人投資家の頻繁な利用を想定していないため,機関投資家などのプロの市場参加者に比べて個人向けが相対的に割高となっている。市場情報のコストの公正な負担のあり方についても議論が必要であると考えられる。

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