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出版物・研究成果等

証券経済研究 第31号(2001年5月)

銀行組織による事業会社株式の保有―国際的潮流とわが国の対応―

内田聡(富士常葉大学講師)

〔要 旨〕
 一般事業会社による銀行業への参入を巡る動きが盛んな一方で,銀行による事業会社株式の保有を個々の企業の5%までに制限する,いわゆる5%ルールの見直しが論議されている。しかし,同ルールには保有総額の制限がなく,邦銀の株式・資本比率は国際的に高水準なため,単なる5%枠の緩和は禁物である。
 わが国では,銀行による事業会社株式の保有は,主に独禁法・競争政策から捉えられてきたが,欧州では一般に金融行政・銀行の健全性の問題である。すなわち,銀行が1事業会社の株式を10%以上保有する場合(実効的保有),その額は銀行自己資本の15%以下に,実効的保有の合計は同60%以下に制限されるのを基準に,株式保有は自己資本に関連して規定される。
 アメリカでは,銀行による事業会社株式の保有は原則禁止され,銀行持株会社(BHC)のそれは,経済力の集中防止などから,わが国5%ルールと類似の仕組みである。近年,大手BHCの株式保有が急増したが,99年の金融制度改革で,自己資本に関連して株式保有を規定するなど,ルール整備が進んでいる。
 わが国でも,単に5%枠を緩和するのでなく,保有総額とその細目を自己資本に関連させたルールを設けるべきだろう。
 一方,事業会社による銀行業参入への背景には,情報技術革新に伴う金融システムの変容やその予兆が存在するため,銀行による事業会社株式の保有でも,これらを踏まえた議論をしておく必要があろう。たとえば,前述のEUの規定では,制限を越える株式保有は,超過額分の自己資本控除で認められる余地があり,制度的には銀行による事業会社株式の100%保有も可能である。
 金融や金融関連という基準で銀行の容認子会社を定めるのが基本だが,将来的に(あるいは現に),銀行と事業会社のある部分の境界線が曖昧になる状況では,リスク処理可能という観点から業務認可を行う余地を持つことが必要性になるのかもしれない。

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