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出版物・研究成果等

証券経済研究 第31号(2001年5月)

「ニューエコノミー」期の米国国際収支

伊豆久(大阪研究所主任研究員)

〔要 旨〕
 2000年,米国の経常収支赤字は対GDP比で4%を越え,史上最高を記録した。しかしながらこれに対しては,米国経済の脆弱性を示すものだとする見方と,逆に,その強さを表すものとする見方が並立している。本稿は,その両者の見解を整理検討するところから,「ニューエコノミー」期の米国経済とその対外的資金フローの特徴を明らかにしようとしたものである。
 経常収支(≒貿易収支)に対しては,三つの視点からアプローチすることができる。輸出入の大きさそのものに着目する第一の視点からは,現在の貿易赤字は,米国と海外諸国との景気循環のズレ,各国の「不公正な」取引慣行などに原因があるとされるが,こうした見方は,現時点では少数派である。
 米国の貿易赤字は,国内投資と国内貯蓄のギャップに原因があるとする第二の見方は,さらに,IT関連を中心とする国内設備投資を重視する見解と,企業・家計の貯蓄率の低下に原因を求める見解に分かれる。設備投資の役割を重視すれば,IT革命による期待収益率の上昇が設備投資を押し上げ,それが海外からも情報機器などの生産財を輸入し(貿易赤字),またそのための資金を呼び込んだ(資本収支黒字)ということになる。したがって,現在の貿易赤字は,米国経済の弱さではなく強さの反映だということになる。他方,貯蓄率の低下に着目すれば,個人消費と株価のバブル的スパイラルが浮かび上がる。また,活発な設備投資や自社株買いの一方で,企業はそのため資金を債務の増加によって調達しており,企業財務の脆弱化が進行している。貿易赤字は,こうした問題と表裏一体の関係にあるのである。
 第三の,現在の貿易収支を巨額の対米投資の反映だとする見方からは,90年代末の対外資本フローにおける,90年代半ばまでとは異なった特徴が明らかとなる。米国への資本流入では,リスク・キャピタルのウエイトが増加し,反対に米国からの資本輸出では,かつてのような積極的なリスク・テーク機能が低下している。米国の<世界の銀行>として機能に変化が生じている可能性がある。

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