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出版物・研究成果等

証券経済研究 第30号(2001年3月)

90年代におけるわが国資金循環と金融システムの変化

石田定夫(元明治大学教授)

〔要 旨〕
 日本銀行調査統計局は1999年7月「金融経済月報」において資金循環改訂統計を発表,90年度に遡る画期的な新データを整えた。この小論は,画期的な改訂統計を利用して,景気低迷下の90年代の資金循環の態様と金融システムの変化を,フローとストック両面 にわたり統計的に観察し,それを踏まえて私の提唱する「資金循環の図式論」の観点から,90年代の資金循環の動きを考察し現局面 の問題を論述するものである。以下はその主要な論点である。
 (1) 90年代を通じて資金循環は趨勢的に縮小し,その形態も変化した。資金循環縮小の始発点は銀行貸出の減少であり,資金循環バランスの変化の中核は国債の増発と郵便貯金・簡保の著増である。  (2) 銀行貸出の減少は,景気低迷下の資金需要の低調と,不良債権の累積・銀行の与信能力の低下の需給両面 の要因による。
 (2) 銀行貸出の減少は,景気低迷下の資金需要の低調と,不良債権の累積・銀行の与信能力の低下の需給両面 の要因による。
 (3) 大量の国債発行は,低金利・超緩和政策の推進と発達した債券市場を背景に,銀行・機関投資家・公的金融など広範にわたる金融機関によって引き受けられた。金融機関の国債など債券引き受け増加は,貸出の減勢に代わって資金供給の主要な形態となった。
 (4) 銀行貸出の減少,国債の増発は,資金のフロー面では「部門別資金過不足」バランスにおける企業部門の資金不足から資金余剰への変化,政府部門の資金不足の増加にあらわれた。ストック面 では企業部門の債務残高(99年度末1,240兆円)の対GDP比が10年間で2.62から2.42に低下し,政府部門の債務残高(640兆円)の同比は0.65から1.24に倍増した。
 (5) 家計部門は高水準の資金余剰(貯蓄超過)を続け,99年度末金融資産残高1,390兆円を記録,対GDP比は10年前の2.22から2.71に上昇した。その過半は現金・預金750兆円(うち郵便貯金260兆円),ついで保険・年金が380兆円(うち簡保年金110兆円),債券投資90兆円,株式投資が120兆円である。預金では流動性・安全性が選好され流動性預金と郵便貯金が増加した。
 (6) 国内の貯蓄超過は海外への純債権の増加に当てられる。機関投資家・企業の対外証券投資も活発であったが,国内資金の純流出はおもに銀行の対外債務の返済に当てられた。80年代後半のバブル期には資金の対外流出入が両建の形で増加したのに比べて,90年代は様変わりの動きとなった。これはポストバブル期のわが国銀行の対外活動の縮小整理を示すものである。
 (7) 金融システムの構成については,90年代において預金取扱機関とくに銀行のシェアが低下し,機関投資家(保険・年金基金)および公的金融のシェアは上昇した。銀行のシェア低下は,前述の貸出減少,預金の伸び悩みに基づくものであり,公的金融のシェア上昇は,郵便貯金の好伸を背景に民間金融を補完する政府系金融機関の貸出が増大したことを示すものである。
 「金融システム」におけるこうした公的金融のシェア上昇は,前述の借り手としての政府部門のシェア上昇とあいまって,長い経済調整過程において生じた資金循環の構造変化であり,資金配分の効率化の見地からみて注目を要する点である。
 (8) 銀行信用が伸び悩みないし収縮するなかで中央銀行信用は国債オペレーションを中心に増大した。これは金融不安・景気低迷下におけるパラドックス現象であるが,日銀が民間の現金需要の増加に応え,金融システムの安定・景気回復に必要な流動性を潤沢に供給する超緩和政策を推進してきたことを示すものである。
 (9) 最後に,「資金循環の図式論」の視点から,銀行貸出の減少と国債の大量 発行の問題に論点を絞ってみる。
 銀行貸出の減少は,景気低迷下の産業的流通のデフレ的縮小と負の循環(第1過程→←第2過程)にあったことに関連するが,それはまた,資産市場の悪化(資産デフレ)とも負の循環,つまりそれが不良債権の累積を通 じて与信能力の低下となった(第1過程←→第3・4過程)ことにもよる。こうしてバブル経済の調整のなかで,資金循環の規模は銀行貸出の減少を基軸として趨勢的に縮小してきたのである。
 また国債の大量発行が続き,政府部門が企業部門を上回る巨大な借り手になり(第2過程),国債は大半が広範にわたる金融機関に引き受けられ,「金融システム」において主要な運用資産となった。今後,金融政策と国債管理との関係が重要な問題となろう。

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