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出版物・研究成果等

証券経済研究 第29号(2001年1月)

金融収益部門としてのアメリカ確定給付型企業年金―1980年代のリバージョン問題を起点に―


吉田健三(京都大学大学院)

〔要 旨〕
 1980年頃より,アメリカ企業年金の中心的存在である確定給付型年金(以下DB)の資産運用成績はかつてない高水準を記録しはじめた。その金融収益は,総額2000億ドルにも上るDB積立超過資産として蓄積され,これをいかにして自社の経営のために利用するかが企業の企業年金に対する新しい関心事となった。しかし,その活用の際には常に,「企業年金資産は従業員のものである」という問題が,すなわち公的役割を与えられた企業年金資産の法的地位 が障害となっていた。
 この問題を回避すべく企業は,DBをいったん終了し清算することを通 じて積立超過資産を獲得する行為をし始めた。これが80年代に流行し,広く世間の耳目を集めたリバージョンである。しかしこのリバージョンもまた,企業年金資産の帰属先の問題をめぐって頻繁に裁判の対象となった。レーガン政権もこの問題を乗り越えるべくリバージョン容認・支援する方針を打ち出したが,議会の反対や税制改革議論のなかでその方針は頓挫し,最終的にリバージョンは強く規制され,鎮静化された。
 しかし,この規制によるリバージョンの鎮静化は必ずしもDBの金融収益部門としての機能喪失を意味していたわけではなかった。リバージョンが鎮静化される頃から企業は拠出金の削減という形でこのDB金融収益を間接的に,したがって企業年金資産の帰属先が問題にならない形で享受し始めた。今日では会計制度もこの企業による積立超過資産の活用を前提に,DBの資産運用収益を企業会計に反映させており,DBは文字通 りの企業の金融収益部門として注目を集めている。

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