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出版物・研究成果等

証券経済研究 第27号(2000年9月)

90年代における上場企業の増資行動―パネル分析―

松浦克己(横浜市立大学教授)
竹澤康子(東洋大学助教授)
鈴木誠(大和総研主任研究員)

〔要 旨〕
 90年代に入りバブル崩壊や大手証券会社,銀行の破綻という金融システムの不安の中で,企業金融も様々な課題を抱えるにいたった。経済成長の鍵の一つは企業の投資であり,それを支えるために企業金融が十分機能することが期待される。そこで我々は企業金融の中でも重要な課題である増資の決定がどのように行われているかを91-97年度の上場企業について検証を行う(対象2,846社,延べ13,688サンプル)。その際,a)企業の資金調達に関し内部留保,外部負債,増資で企業が優先順位 をつけているというペッキングオーダー仮説が成立しているかどうか,b)新株発行のエージェンシーコストと密接に関連するコーポレートガバナンス(株主構成比率)がどのように影響しているかを明示的に考察する。さらにc )パネル分析を試みることにより各企業の時点間の変化が企業財務の意志決定に与える影響を含めて分析する。  主な結果は次のとおりである。
 (1) 株主構成比率でみたコーポレートガバナンスは企業の増資に影響している。負債と増資の間では,程度は弱いもののペッキングオーダーが存在する。
 (2) 負債の内訳に関しては,銀行借入と社債の間に優先順位は存在しない。
 (3) 企業の増資に比較的強く影響しているのは,(税引後利益+減価償却)を用いて計算された資本コスト(株式益利回り)と株価である。
 (4) コーポレートガバナンスを考慮すると,発行済み株数で見た企業規模は増資に影響していない。
 実務界でよく指摘されるように株価の高い企業ほど増資を行うということは,株価が企業価値より高く評価されている企業ほど増資を行っている可能性を示唆するものであり,経営者・既存株主と投資家の間にエージェンシー問題が発生しているのかもしれない。

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