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出版物・研究成果等

証券経済研究 第24号(2000年3月)

わが国証券市場観の源流

西條信弘(東亜大学大学院教授・当研究所兼任研究員)

〔要 旨〕
 わが国の証券市場に対しては,自由化・国際化が進み,外資系の証券会社が多数国内に進出している今日においても,なお投機的とか未発達という意見が一般 的である。確かに戦前には,金融自体が,とかく混乱とか未成熟といった眼で眺められてきたところがあり,証券市場も,当然,例外ではなかったし,そうした戦前の証券市場観やそれに関する逸話は,今日まで非常に多くのものが伝えられている。しかし,こうした戦前期に培われた証券市場観でもって,経済の発展度も,法制度的にも全く異なる現在の証券市場を,あまりに律しすぎるような気がしてならない。
 いいかえれば戦前の証券市場観の形成には,当時の「先進国へ追いつけ,追い越せ」思想から来る近代化の推進と現実のギャップへの焦り,士農工商の観念が色濃く残る経済社会での士(官)の商(証券業)に対する無理解,あるいは生産の重視,勤倹貯蓄による経済発展の基盤作りといった思考からくる,いわば投機不寛容思想あるいは証券市場軽視(蔑視)思想とでもいうべきものが,多分に影響しているように思える。
 具体的には,戦前の取引所の価格形成システムが定期(清算)取引(今日でいえば先物取引)であり,株価の乱高下が激しい上に,市場の専門家である仲買人(取引員)の倒産も多く,さらに規制対象外で,その数も多い現物商が関連する不正行為も頻繁であった。また,取引所の組織が株式会社という営利組織であったことも,投機を助長するものとして批判された(この所以については明らかでないが,取引所開設当初の頃,手数料の内,取引所への納入分が高く,これが,仲買人の経営を圧迫し,いわゆる秘密取引を招いて,脱税等の原因となったことが,「営利組織-高手数料-脱税-不正行為(あるいは投機化)の濫觴」といった考えに結びつき,株式会社組織投機助長論の淵源になったものと思われる)。こうした事情が戦前を通 じての証券市場観を形成する基礎になったと考えられる。
 財閥解体や証券民主化運動の展開,証券取引法の制定,証券取引システムの改革等によって証券市場の社会的地位 は,戦前とは比較にならないほど向上した。しかし,戦時中に形成され,戦後も受け継がれた管理・計画性の強いわが国独特の間接金融システムの下で,戦前からの証券市場観が,政界・官界・銀行界に強く残っていたことに加え,自由市場である証券市場は,統制には馴染まないし,むしろ金融秩序を阻害する虞れのあるものとして認識されがちであった。
 こうしたことが,戦後においても,なお証券市場の機能を軽視し,未発達,投機的とする根因として,今日まで引き継がれているようである。

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