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出版物・研究成果等

証券経済研究 第19号(1999年5月)

日本企業システム形成の一側面―1950年代前半の資産再評価問題―

宮島英昭(早稲田大学教授)

〔要 旨〕
 本稿の課題は,日本の企業システム形成史研究の一環として,これまで必ずしも充分注目されてこなかった1950年前半の資産再評価問題を検討する点にある。
 財閥解体・企業再建整備・法制度的枠組みのアメリカ化に要約される戦後改革が我国企業の資本構成とガバナンス構造に与えたショックは大きかった。その結果 ,1950年代前半,とくにドッジライン直後の企業行動は,長期的には社会的に望ましい(株主にとっても利益がある)にもかかわらず,株主が短期的な利益を選好する結果 ,企業経営者がその選択を回避するという意味で近視眼的Myopicであった。具体的にいえば,戦後改革直後,我国企業の資本構成と,コーポレート・ガヴァナンス構造は,次の3つの経路,すなわち(1)資産再評価の遅れ-償却限度額の低下-過少償却,(2)過少資本化-乗取りの可能性上昇-配当性向上上昇-内部留保低下,(3)負債比率の上昇-倒産リスクの上昇-投資の制約,の3つの経路を通 じて企業の資金調達手段の選択と投資行動を制約する強い可能性を帯びていた。
 この短期的な時間的視野に基づく“低貯蓄”均衡とも呼ぶべき状況に陥ることを回避し,企業の資本構成,財務選択,投資行動を“高蓄積”を促進する方向に変化させる上で重要な意味を持ったのが,1950年代前半の資産再評価の促進措置,とくに1954年の資産再評価の強制であった。この措置が,金融システムの整備や,並行して進展しつつあった企業間及び企業・銀行間の長期的関係の形成(企業集団の形成や,いわゆるメインバンク関係の形成)と相互促進的に機能して,高度成長期の企業行動を支える財務構造とコーポレート・ガヴァナンスが形成されることとなるのである。
 以上の点を明らかにするために,本稿では,復興期の大企業(鉱工業上位 126社)からなるデータ・ベースを基礎としながら,資産再評価の実施を企業経営者の主体的選択と捕らえて分析することが試みられる。この作業を通 じて,償却の促進,社外流出の緩和,デフォルト・リスクの引き上げ,企業間のネットワークの形成の諸点で,戦後の日本企業システムの形成に関して生産再評価問題の処理がもった重要な意味が明らかになろう。

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