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出版物・研究成果等

証券経済研究 第18号(1999年3月)

債券格付制度の現状と問題点

三浦后美(文京女子大学教授)

〔要 旨〕
 戦後,日本国内での社債の発行を事実上制限してきた適債基準が1996年1月に撤廃されて,すでに丸3年が経つ。これを契機に,日本の社債発行市場は現在,構造的な変化を遂げつつある。この「完全自由化」によって,信用力の低い企業,あるいは財務内容の悪化している企業でも公募での起債が可能となり,その結果 ,日本の投資家は,これまでとは一変し,常に市場で債務不履行(デフォルト)に陥るかもしれない社債を掴まされる危険にさらされることとなった。
 日本の金融(財務)システムは,1993年に始まった金融制度改革の進展とともに,金融・資本市場を競争市場へと大きく移行させた。そこでは規制当局の「情報開示規制」を出来るだけ排除し,市場に公平性,効率性を委ねるとする考え方に基づくものである。そんな中で,日本の投資家は,企業の信用リスクに対する自己責任原則の意識を高め,投資情報としての“債券格付け”に従来にも増して関心を持つこととなった。アングロ・スタンダードの米国から生まれてきたのが,債券格付け制度そのものである。いままさに,その債券格付制度が,これまでの日本的金融(財務)システムに深化させる形で,大きく影響力を持ち始めたのである。
 1980年代に入って,ムーディーズ,S&Pを中心とした米国の格付機関が,「他国には進出しない」という従来の経営戦略を一大転換し,積極的に日本,ヨーロッパ,に進出したことである。現在では先進国で主要9機関,エマージング・マーケット27機関の合計36の格付機関が活動している。さらに,1990年代に入ると,「それぞれの国への内政不干渉政策」を転換し,自らが外国の金融市場に直接進出する世界戦略を開始していると言われる。債券格付けの公的利用は世界的な規模で生成・発展を遂げつつある。また,格付機関は,私企業であるにもかかわらず,確実に国際金融市場の貴重なインフラの一つになろうとしているのである。

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