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出版物・研究成果等

証券経済研究 第16号(1998年11月)

証券業免許制と免許行政の評価

小林和子(東京研究所主任研究員)

〔要 旨〕
 1998年6月5日に成立した金融システム改革法に含まれる証券取引法改正により,証券市場ビッグバンの大半が98年12月1日から実施される。改革の範囲はすでに昨97年6月に提出された証券取引審議会,金融制度調査会,保険審議会それぞれの報告書に示されているものであるが,とりわけ市場型取引の「場」を提供し,これまで市場仲介者の大半を保持してきた証券業界の改革が圧倒的に大きい。ここでは証券業者免許制の登録制への転換に当たって,証券業者にとっての免許制というものを考え直してみたい。
 証券業者の規制理念は,無規制,緩やかな登録制,厳しい登録制,緩やかな免許制,厳しい免許制,の5段階に分けることができる。明治以来の日本の証券行政はこれらのすべてを実験してきたものであるともいえる。たとえば,戦前期の株式引受業務は無規制,戦後の昭和23〜36年の登録制は緩やかな登録制,昭和37〜40年は厳しい登録制,戦前期の取引所取引員(仲買人)免許制は緩やかな免許制,昭和43年以後は厳しい免許制(ビッグバン議論以後は緩やかに変わりつつある)とみることができる。ビッグバン以前に金融・証券不祥事の段階から強く社会的に批判されるようになった日本の証券業者免許制は,なぜこのように「厳しく」「強固な」免許制になったのか。いまだ完全に幕を下ろした段階ではないのだが,再び従前と類似した登録制に復帰するに当たり,拙速ではあるが一定の評価を下しておきたい。
 便宜的に今後の登録制を第2次登録制,従前のそれを第1次登録制と呼ぶことにする。第1次登録制廃止時の議論をたどり,証券業の規制理念として論理的あるいは本質的な優位 性を免許制に見いだしたわけではないこと,比較検討しうる程度の差異を念頭に証券業経営の建て直しのために免許制がとりあえず導入されたことを明らかにする。戦後の免許制は証券行政の中心問題が証券業経営の再建と安定にあった時代の産物といえる。
 とはいえ,証券業経営の建て直しのために導入された免許制は,証券恐慌後の日本市場の発展と国際化,自由化の過程で,業者行政を越えて拡大し,変質する。証券業免許制と,それに根拠を置く証券市場に対する免許行政そのものとを区分して捉えるべき所以である。しかし,この点についてはいまだ不十分な展開に留まる。再論を期したい。

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