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証券経済研究 第110号(2020年6月)

市場のみの金融危機と企業の資本構成

吉田隆(金沢星陵大学経済学部教授)

〔要 旨〕
 2008年9月のリーマン・ブラザーズ証券の破綻を契機に,わが国では株式市場,公的負債市場をはじめ,金融市場の機能が総じて低下したのに対し,銀行システムはおおむね健全性を維持した。本稿では,このような「市場のみの金融危機」が企業の資本構成に与える影響を分析する。そのために,東証第一・二部市場をはじめとする証券市場に上場する非金融企業の2005年から2011年までのデータを用い,ディファレンス・イン・ディファレンスによる公的負債比率(負債全体に占める公的負債の割合)と負債比率との同時推定を行う。推定の結果,市場のみの金融危機は,私的負債のみに依存する企業に対して負債比率を上昇させる影響を与える一方,負債を市場に依存する企業に対して負債比率を引き下げる影響を与えることが見出される。この結果から,株式に対する負債の相対的な利用しやすさは,市場のみの金融危機の影響下において,私的負債のみに依存する企業にとって向上するのに対し,負債を市場に依存する企業にとって低下することが示唆される。

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