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第111号(2020年9月)

従業員持株制度と企業のリスク

頭士奈加子(一橋大学大学院経営管理研究科金融戦略・経営財務プログラム博士課程・当研究所研究員)

〔要 旨〕

 日本の上場企業の多くが従業員持株制度を導入している。しかし,従業員に対する自社株式の付与がもたらすインセンティブやその影響については,十分な解明が尽くされていない。経営者や役員への自社株式の付与と企業のリスクとの関係を調査した先行研究では,リスクテイクを促す効果と妨げる効果が議論されている。本稿では,これらの効果が従業員への自社株式の付与についても適用できるかどうかについて,日本の従業員持株制度と企業のリスクとの間の関係を実証分析している。
 2009年2月から2016年9月までの国内上場企業を対象に検証した結果,従業員持株制度が存在する企業では,収益性,キャッシュフローおよび株価リターンで測った企業のリスクが少ないことを実証した。なお,この傾向は比較的規模の大きい従業員持株制度が存在する企業においても頑健であった。さらに,従業員持株制度と企業のリスクとの間のネガティブな関係は,役員持分比率が高いときや株主の集中度が高いとき,不動産価格の下落局面において,より顕著となった。本稿の結果は,従業員への株式付与が従業員にリスクを回避するインセンティブをもたらし,企業のリスクに影響を及ぼしているという考え方を支持する結果である。

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