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証券経済研究 第109号(2020年3月)

IRベストプラクティス・ガイドライン(アニュアルレポート編)の進展

米山徹幸(埼玉学園大学大学院(経営学研究科)客員教授)

〔要 旨〕
 英国IR協会(IRS)は,2001年の「ウェブサイト」向けの「ベストプラクティス・ガイドライン(BPG)」に続いて,2006年に「印刷・オンライン版アニュアルレポート(AR)」を発表する。ARのBPGは各社の記述情報(narrative information)が対象である。本論はその進展を追って英国の内外で高く評価されるBPGの軌跡を確認する。
 2006年.英会社法の改正でARに「取締役報告書」の「ビジネスレビュー」(事業概況)に「環境問題」「従業員,社会および地域社会」「環境問題や従業員に関連する非財務的KPI(主要業績指標)」などに関連する記載が盛り込まれた。この改正の動きの中,英国勅許管理会計士協会(CIMA)など4社が「レポート・リーダーシップ」を立ち上げ,仮想会社Genericoを使ってARでの記載モデルを作成し,これを参考にIRSはAR向けのBPGを発表する。
 その後,IRSのBPGは毎年のようにいくつかの手直しを重ねるが,大きなものは2009年,2012年,2016年の3回である。2009年,FRC(英財務報告評議会)とASB(会計基準審議会)は各社のARを検証して,具体的に「やるべきことと(To do)」と「やってはいけないこと(Not to do)」を指摘した報告書を発表し,2011年にはFRRP(財務報告違反審査会)が同様にARの検証を行って,その「良いARを作成するためのガイドライン」が2012年のBPGの冒頭に掲載される。2012年,FRCが新たな改正コーポレートガバナンス・コードを発表すると,IRSの2013年版BPGは「ビジネスレビュー」を「ビジネスモデルと戦略」「市場評価」「パフォーマンス」など8つの項目で構成し,以前になかったコミュンケーションのBPGも掲載するなど大きな変更となった。
 そして,同じ2013年に英会社法2006が改正され,上場企業は取締役報告の「ビジネスレビュー(事業概況)」の一部を「戦略報告」として別途作成することになったが,その内容はすでにIRSのBPGに反映されていたといっていい。これは2013年のIIRC(国際統合報告評議会)の統合報告フレームワーク案とほぼ同様の記載を英企業のARが難なく採用する道を用意するものでもあった。これ以後,多くの英企業のARは統合報告を体現する内容となってきている。
 2016年IRSは「新たなベストプラクティス・ガイドライン(NBPG)」を発表する。新たに「IRO(IR責任者)の役割」「IRと取締役会」「ガバナンスと議決権行使」など10項目から構成され,全米IR協会(NIRI)の「IR実務の基準と指針:情報開示(2014)」と少なからず重なる内容である。2001年ウェブサイトに始まった1つのBPGは,いまやIR関係者が参照する「IR実務」のガイドラインに至ったともいえよう。

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