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2026年7月

日本の社債市場の現状と発展への課題

堀江貞之(公益財団法人日本証券経済研究所 特任研究員)

(概要)

日本の社債市場は、発行量・発行企業の広がり・格付けの多様性・社債保有者の層の薄さなど、様々な観点で大きな課題を抱えており、海外に比べ発展が遅れている。端的に言えば、日本企業に対する銀行の影響力の大きさ、いわゆるデットガバナンスの状況が社債市場の発展に色々な形で影響を与えていると考えられるのである。社債市場の発展を阻害している課題は、いわゆる「鶏と卵の関係」という比喩が使われ問題解決の難しさが指摘されている。社債を発行する側(企業)、社債を購入する側(運用会社等)、仲介機関(証券会社・銀行等)それぞれに課題があり、一方の問題だけを解決しても、根本的な課題解決は難しいという指摘である。

社債市場が発展するための起点は日本企業の企業価値向上に対する意識改革にあると思われる。つまり、日本企業が企業価値向上を図るために資本政策を高度化する過程で、銀行借入、社債発行、メザニン発行、株式発行など資金調達手段を多様化させ、社債発行を最適資本構成実現の手段として活用することが近道である。社債市場の課題は、日本企業が企業価値向上を図る中、資本政策を高度化していく過程で自然と解決していくことが重要ではないか。

多様な社債発行の受け皿となるのは機関投資家であるべきだ。特に公社債投信は個人預金の受け皿として極めて重要な役割を果たすと考えられる。国債に比べて信用リスクプレミアムを上乗せすることができる社債投資枠を拡大することで、個人に対して安定的なリターンを提供することが可能となるからである。大きな資金を運用できるファンドとしては、巨額の資金を運用している公的年金ファンドから国内債のアクティブ運用を受託している運用会社も短期的に大きな投資機会がある。超過リターンの源泉としての社債投資の役割が大きいからであり、長期投資に適した運用先になりうると考えられる。

目次

  1. 1.はじめに
  2. 2.日本の社債市場の現状
  3. 3.日本の社債市場の課題
  4. 4.日本の社債市場発展に向けての道

1.はじめに

公益財団法人日本証券経済研究所において2026年1月からスタートした資産運用業研究会(以下、研究会)の第6回及び第7回会合では、「日本の社債市場の現状と活性化に向けた課題整理」について、研究者や運用会社の実務担当者も交えて議論を行った。このテーマを取り上げた理由は単純だ。日本の非金融法人の資金調達が、いまだに銀行借入を含む様々な銀行が提供するサービスに大きく依存し、社債発行が十分な水準に達しておらず、投資家への多様な投資商品を提供するという資産運用業の役割を十分に果たせない状況が続いているからである。

例えば、個人投資家向けにごく限られた数の企業が社債発行を行っているが、個人投資家に企業の倒産リスクを直接背負わせる状況になっている。本来、投資信託(以下、投信)を通じて企業の信用リスクを十分に分散した上で国債に比べ高い信用リスクプレミアムを個人投資家に提供する方が適切なはずだ。

社債市場を発展させることは、事業会社が本来行うべき最適資本構成を実現する上でも不可欠な手段を提供することに繋がり、資金調達手段を銀行借入から複線化し、今後の成長資金を確保や企業金融の強靱化のためにも重要であるはずだ。経済産業省(以下、経産省)も同様の認識の下、「企業金融の高度化に向けた社債市場の在り方に関する研究会」を立ち上げ、2026年4月20日に中間報告をとりまとめている。

本稿では、資産運用業研究会での発表及び質疑の内容を基に、日本の社債市場の現状を概観すると共に、今後社債市場が発展するために解決すべき課題とその解決方法について、運用会社だけではなく、社債の発行主体である事業会社など社債市場の発展に関わる様々な関係者の異なる立場を踏まえて説明してみたい。

2.日本の社債市場の現状

社債市場が十分な成長を見せなかったことは、2000年代以降、設備投資等を行うための長期資金調達ニーズがさほど堅調でなかった上、緩和的な金融政策の下で銀行からの低利での資金調達が可能であったことなどが主たる原因であったと考えられる。日本の社債市場が十分な発展を遂げていないことは様々なデータからも見て取れる。以下、簡単に幾つかのデータから社債市場の現状を概観してみたい。

(1)日本の社債市場の規模及び発行体

日本銀行の資金循環統計(注1)で、社債の残高と借入残高(非金融法人企業)を比較すると、72兆円対482兆円となっており社債残高は借入残高の7分の1強の水準に過ぎない。しかも72兆円の社債発行額の内、地域金融機関を主とする金融機関が約4割の社債を保有している。直接金融と言うべき社債市場においても間接金融を担う銀行がその中心となっており、日本の金融機関が非金融法人企業への資金供給を直接・間接に担っている現状が浮かび上がる。

米国との比較では、米国の上場企業が資金調達する場は、直接金融、つまりCP(コマーシャルペーパー)、私募債、公募社債市場である。銀行借入に頼るケースは少なく、日本とは好対照だ。

日本の債券市場でも、社債市場の相対的な規模の小ささが際立っている。NOMURA-BPI総合指数の時価構成比ベースでは、社債比率は6.2%だ。米国の主要な債券指数における社債比率はおおむね25%~30%であり、日本の債券指数における相対的な小ささが目立っている。

(2)社債発行の偏り

社債発行で格付及び発行企業に大きな偏りがあるのも日本の社債市場の特徴である。例えば、BBB格の債券の、社債市場の発行残高に占める割合は、過去20年間にわたり低下しており、直近ではその比率は2%にすぎない。日本ではほとんどの社債がシングルA格以上であるというのが現状だ。ちなみに日本では私募債を除けばBB格以下の低格付の社債は発行されていない。

一方、米国の主要な債券指数のシングルA格以上、BBB格、BB格以下の比率はそれぞれ40~45%、35~40%、15~20%となっており、BBB格が過去10年で大きく増加したことが特徴的である。米国では様々な格付けの社債がほどよく分散されて発行されている。

また社債発行の残高のある企業は、日本証券業協会(以下、日証協)の2025年末の売買参考統計値に計上されている企業で、457社(外国企業、道路会社等を除く)に過ぎない。一方、25年末の東証の上場企業はプライムとスタンダードを併せて約3千社。つまり、上場株式でも社債を発行していない企業が普通の世界で、むしろ社債を発行している企業が少数に留まっている状況である。

個人向け社債でも発行体企業の偏りがある。約17兆円の個人向け社債の発行残高のうち、1つの事業会社グループが43%を占めている。その他、メガバンクを含む7社で発行残高の8割を占めている。

このように社債の発行残高自体が少ないこと、シングルA格以上の投資適格債に偏っていること、発行企業も一部の企業に偏っていることなど、日本の社債市場が小規模に留まり多様性を欠く状況は明らかだ。

(3)社債保有者の特徴

日本と米国の社債の保有構造を比較すると日本の社債市場の別の特徴が浮かび上がる。米国の場合、社債の保有者は、①保険・年金基金(38%)、②海外(29%)、③投信(23%)という3つの主体の比率が高いという特徴がある。一方、日本の場合、前述したように一番保有比率が大きいのが預金取扱金融機関だ(地域金融機関が多い)。直接金融と思われている社債市場で、実は間接金融の担い手である銀行が最大の保有者なのである。

保険会社の保有比率は16%で米国と遜色ない比率だが、年金基金の保有比率は2%と極めて小さい。投信も3%と米国と比べ極めて小さな保有比率である。日本の社債保有者は銀行に偏っており、銀行以外では保険会社が大きな比率を占めるが、米国で主要な保有者となっている年金基金や投信の比率が極端に低い。投資家層が一部の機関投資家に限定され、保有者層の厚みがないことが日本の社債の保有構造上の大きな特徴となっている。

3.日本の社債市場の課題

日本の社債市場の特徴は経産省の研究会だけでなく、これまで設置された幾つもの社債市場を活性化させるための懇談会等でも指摘されている点だ。またこれらの社債市場の特徴がもたらされた原因分析も過去の研究会等で行われている。

(1)銀行の総合サービスに隠れた社債発行ニーズの低さ

社債市場が発展しない最も大きな理由は、今に至るも事業会社の資金調達が銀行借入に大きく依存していることにある。銀行は事業会社に対して、貸出だけでなく人的サポートも含めた経営支援等の総合サービスを提供している。社債を発行している企業が500社に満たない状況というのは、事業会社がいかに銀行に頼っているかの証左だろう。資金が必要となったとき、銀行が支援してくれるので、社債を発行するニーズがさほどないという状況が見て取れるのである。

大企業はグローバル展開を見据えて、今後、旺盛な資金需要が出てくる可能性がある。現に2025年には、大企業を中心に外貨建ての社債発行額が円建ての社債発行額を超えた。銀行の貸出量にも限りがあり、産業金融の観点から、資金調達手段を銀行借入だけでなく、社債を含む直接金融の活用に複線化していくことは、産業の強靱化にも資すると考えられる。経産省が社債市場発展に関わる研究会を立ち上げたのもそのような背景があったからだと考えられる。大企業と中小企業で資金ニーズの強さが異なるのは当然であり、大企業を中心に直接金融を活用する比率が高まるのだろう。

(2)発行企業における社債発行に関する知識不足

社債発行企業が少ないこと、また発行頻度が低いこともあり、事業会社内で社債発行のノウハウが蓄積されていないことも、社債発行が進まない原因の一つとして指摘されている。数年に1度、下手をすると10年に1度という発行回数では、発行のノウハウが社内で蓄積されないことは明らかだ。銀行借入が全てのコストが内枠であるのに対し、社債発行の場合は債券のクーポンの他に発行手数料が外枠で掛かることもあり、社債は発行が割高だという誤った認識を持つ関係者も多いようである。経産省が2026年6月に、「社債発行のガイドブック」や「社債活用好事例集」という冊子を公表したのは、少しでも事業会社に社債発行の意義や手順をわかりやすく理解してもらい、社債発行のハードルを下げようとする努力の現れだと考えられる。

(3)最適資本構成に関する意識の低さ

日本企業がこれまで社債をあまり発行してこなかった深層の理由として、多くの日本企業が資本構成を適正化する意識が低かったことを指摘できる。東京証券取引所(以下、東証)が「資本コストや株価を意識した経営」を行うことを上場企業に2023年に要請したこともあり、ようやく企業価値向上に対する認識が高まってきたが、それまでは多くの企業で「最適資本構成」を強く意識することがあまりなく、資本コストを適切なレベルに下げるために、株主還元や銀行借入、社債発行、劣後債等を含むメザニン融資、資本増強などの手段を適切に組み合わせる意識が低かったのではないか。本来、事業特性を踏まえて、資金調達手段を適切に組み合わせ、資本構成を適正化することが必要だが、そのような意識がなければ社債を活用しようという発想すら思い浮かばないのが実情ではないだろうか。

(4)投資家の硬直的な投資ガイドライン

社債発行がシングルA格以上の投資適格債に偏っていることの理由の一つとして、BBB格以下の社債への投資家ニーズの低さが指摘されている。運用会社の問題というより、標準的な債券ベンチマークがシングルA格以上の債券を組み入れ対象にしていることや日本の年金基金等のアセットオーナーが保守的な投資ガイドラインを運用会社に提示していることが原因ではないかという指摘だ。

例えば、国内債のベンチマークとして標準的なNOMURA-BPI総合指数では事業債の組み入れ基準はシングルA格以上である。ベンチマークの投資対象となっていないオフベンチマークのBBB格の社債を運用会社が組み込みにくいことは容易に想像できるだろう。

またアセットオーナーの投資ガイドラインの中に「BBB格以下になった場合に速やかに売却すること」といった項目が入っていることが多く、BBB格に格付けが下がった債券がすぐに売却対象となり、価格が大きく低下し、その後もあまり売買が行われなくなる状態が発生してしまう。

(5)流動性不足

流動性が低いのはBBB格の債券に限った話ではない。前述した発行額の少なさ、投資家層の薄さといった社債市場の需要・供給両面での課題が、社債市場の流動性が高まらない根本原因になっている。発行量がそもそもあまり大きくないので社債残高が積み上がらず、満期保有する投資家も多いので、流通量が高まらない。さらに米国のように投資家層が厚くないため、社債に対する多様な見通しが形成されず、需給が一方向に偏りがちになるといった課題が存在する。

また社債価格が債券の取引は上場株式のように取引所取引ではなく相対取引が主であり価格の透明性が低くなりがちである。従って、店頭市場での売買価格の透明性をいかに高めていくかは、債券取引を活性化させる上で不可欠である。一方で、以前に比べると、売買価格の透明性はかなり向上しているという意見も聞かれる。日証協が毎日公表している「店頭売買参考統計値」は主要な証券会社を全部カバーしており、日証協によるチェックを加えたもので、価格の正確性はある程度担保できている。今後は、さらに公表頻度を高め、売買価格の見える化を進める必要がある。

(6)実質的に劣後債と見なされる社債

日本の社債は商品性にも課題があると言われている。例えば、海外からは「日本の無担保普通社債は劣後債である」という批判を受けている。社債発行時に銀行ローンが社債と同じ無担保債権であったとしても、後付けで社債より先に担保を付けることができる点がその批判の対象になっているのである。

社債には、一般的に「社債間限定同順位特約(注2)」が付されており、同じ企業の銀行融資に担保が付けられても社債は無担保のままで放置されるという状況が発生する。本来、社債間限定ではなく、銀行融資も含めてネガティブ・プレッジ(担保提供制限条項)が付されるべきところ、そうなっていない点が批判されているわけだ。またCOC(Change Of Control)条項(注3)が、格付の高低にかかわらず付与されるべきだが、証券会社や発行事業会社から低格付債に限定するように要求があり、現在もCOC条項は低格付債にしか付与されていない。このような慣行も冒頭の「劣後債」批判に繋がっているわけである。

発行事業体に合併等の資本移動があった場合、格付が大きく変動するリスクがあり、現在のような状況が続けば、社債保有者はその権利を全く保護されることが適わず、運を天に任せるしかなくなる。本来は、発行体並びに投資家両サイドにオプションがあるのが理想形である。そうでないと、社債保有者はこのような予測不可能な劣後性を常に意識しなければならなくなり、商品性の大きな問題となる。

ただし上記の社債間限定ではなく銀行融資を含めてネガティブ・プレッジを付け、社債の実質劣後債化を防ぐべきという点については研究会でも議論が行われたが、それを実行するには難しい点もあるようだ。ネガティブ・プレッジの範囲を拡大させると、別の問題、端的に言うと、銀行サポートが受けられなくなってしまう可能性が発生するという問題だ。銀行支援をもともと期待しない企業はネガティブ・プレッジを付ければ良いが、一方で銀行支援を期待できる企業はネガティブ・プレッジの範囲を社債間限定存続留めにしておいた方がよいのではないかという議論が存在する。良くも悪くもいまだに日本企業の事業運営に対する銀行の影響が強いことの裏返しの課題だと言える。

(7)例外規定を使った社債管理者の不設置が常態化

ほとんどの社債において社債管理者(注4)が設置されていないことが様々な問題を引き起こしていると指摘する声も強い。社債管理者がいない場合、発行事業体が倒産した場合などに自らが社債権者集会を招集する必要が生じるなど、極めて大きな負担が掛かる。さらに後述するように、社債管理設置義務を回避するために発行単位が1億円以上の社債が大宗を占め、小規模のアセットオーナーが分散投資することを難しくしている。

会社法第702条に、社債権者のために「社債管理者」(いわゆる代理人)を設置する法定義務が規定されているが、但し書きで「1億円以上の最低投資単位である場合、その他社債権者の保護に欠ける恐れがないものとして、法務省令で定める場合には、社債管理者を設置しなくてよい」と定められている。この例外規定を使い、社債管理者を設置しないことを主な目的として、最低投資単位が1億円以上の社債が7割以上を占めるという実態がある。最低投資単位が1億円の場合、規模の大きな機関投資家であれば問題はないが、規模の小さなアセットオーナーでは分散投資の観点からの購入が難しくなる。

(8)内外格付機関による格付格差の実態

国内と海外の社債格付会社の間で、同一社債に対する格付水準が大きく異なるという事実についても指摘があった。社債投資の専門家によると平均で「4ノッチ(トリプルA格とトリプルB格の差)」程度の差があるとのことだ。このような格付けの差は、日本企業と銀行の関係をどう評価するかに起因する、というのが専門家の見方だ。

倒産確率で見ると、海外の格付会社が付けた日本企業発行のトリプルB格社債と、世界のトリプルB格社債の倒産確率には、時期にもよるが、2倍以上の差が付くことも多いようだ。つまり、この倒産確率だけから見れば、日本企業発行の社債にトリプルB格が付くのは、低く付けすぎという見方ができる。

一方、融資先企業に倒産の危険が生じた場合、銀行からの借入によって流動性担保がなされている点を含めて考えると、日本の格付会社の格付はよく考えられているという見方も可能だ。日本企業が財務レバレッジを効かせているという観点では、財務指標で見ると悪く見える。海外の格付会社からは、債務比率だけで見ると日本企業の収益性は低く評価されるのである。しかしそれは債務バランスが銀行との強い取引関係があるから高くなる傾向があるということでもある。つまり企業と銀行のこの関係をどう評価するかという点に国内と海外の格付会社の評価の違いがあり、どちらの格付が信用できるかという問いを発するより、それぞれの特性を理解しながらどのように使っていくのかが重要とのことだ。

日本以外の国の同格付の社債に比べ、日本の社債の対国債の信用スプレッドが小さいという事実があるが、この現象も日本特有の企業と銀行の強い結びつきを考慮に入れると、妥当な水準と考えられるのかもしれない。海外投資家から見ると分かりにくいが、この独特の関係が日本の社債市場に海外投資家が参入することを難しくしているのであれば、投資家層の拡大という点では隠れた参入障壁になり得る。どのような解決策が考えられるのか検討が必要な事項なのかもしれない。

4.日本の社債市場発展に向けての道

ここまで日本の社債市場の現状と課題を概観したが、それでは現状を打破する突破口はどこにあるのか。社債市場の現状と課題を議論する時、いつも「鶏と卵の問題」という比喩が使われる。日本に社債を購入してくれる投資家層が薄いので国内での発行が進まず海外での社債発行が優先されるのだ、社債発行の量が少なく発行される社債の格付けもシングルA格以上にほぼ限定されているので様々な信用リスクに応じた価格付が進まず流通市場が発展しないので国内債投資が拡大しないのだ、つまり社債市場が「需要」と「供給」の両面で課題があり膠着状況に陥っているので、解決策がなかなか見つからないという指摘である。

この指摘は確かに現在の状況を皮肉にも的確に表現している。研究会のメンバーの中にも「発行体のニーズもなく投資家の需要もないのであれば社債市場の改革など行う必要がないのではないか」、「社債市場を大きくすることが目的化して何を実行すべきか分からなくなっているのではないか」といった社債市場の改革について批判的な意見もあった。

しかし今の状況は、自然にそのような姿になったわけではないことも事実だ。例えば、歴史的に見れば社債発行額が限定されていたり、社債間限定同順位しかコベナンツがなく実質的に劣後債の状況であったり、社債関係者としてメインバンクが就任するといった慣行もあり、未だに社債市場に多数の制約要因が存在することも事実である。上述のような幾つかの環境変化もあり、現在のような状況が今後も継続するとは筆者には思えない。以下、社債市場が発展するためにはどのようなシナリオが考えられるのか、研究会での議論も踏まえて説明してみたい。

(1)社債発行の拡大

私見ではあるが、社債市場発展の最優先課題が、社債市場の発行拡大にあることは異論の余地がないだろう。グローバル企業の外貨建て社債の発行額が増加しているのは、企業の成長資金を手に入れるには銀行借入だけでは不十分であり、資金調達手段を多様化するニーズが拡大していることの表れであろう。もし、本来は円建ての資金調達がしたいのに外貨建て社債を発行しているのであれば本末転倒であり、社債市場は日本企業の旺盛な資金調達ニーズに対応する責任があるはずだ。

社債発行拡大の本質的な起点となるのは、日本企業のガバナンス改革にあると筆者は考えている。ガバナンス改革の目的は企業価値向上にある。日本企業が企業価値向上を図るには、理論的には、安定した収益力の獲得、利益成長率の向上、資本コストの適正化、の3つの手段が考えられる。資本コストの適正化を図ることは、企業の財務戦略の柱の一つであり、企業の事業特性や成長ステージに合わせて、銀行借入、社債発行、メザニン発行、株式発行など多様な資金調達手段を駆使することが不可欠である。

日本企業は現金保有額が過大ではないかと、批判されることが多いが、いざという時に銀行から借り入れが出来ないと倒産するリスクがあるので、余分な現金を保有している面もあろう。もし信用力が低くとも、低格付けの社債発行が可能で、十分な引き受け手が存在する社債市場が存在すれば、現金を適正水準に保ち、資本効率を高めることも可能なはずである。社債市場の発展が、日本企業の資本構成を適正化させる効果があるのである。

これまで企業の成長や資金ニーズに、主として銀行が対応してきたことは事実だ。しかし、上場企業を中心に企業価値向上を図ることが急務である中、銀行だけでその責任を果たすには限界がある。企業の財務戦略を向上させる手段としてまた資金調達手段の多様化を図る上でも社債市場の拡大は不可欠である。

(2)投資信託ファンドの規模拡大

社債市場が拡大したと仮定すると、その社債の主たる購入者として最も重要であるのは投信だと考えられる。現在の投信はグローバル株式のパッシブファンドという成長性資産に資金が集中しているが、1千兆円を越える預金の受け皿となるのは、本来、国内債券をポートフォリオに組み込んだ公社債投信のはずである。

長期国債の利回りが3%に近づく中、依然として普通預金の利回りは1%以下である。まだ政策金利の上昇余地がある中、当面は短期債券でポートフォリオを構築し金利上昇の可能性が低くなった段階で長期債にポートフォリオを変更していくといった工夫をすることでマイナスリターンになるリスクを低くするといった対応もありうるだろう。過去、リターンが悪かったからといって、今後の公社債投信のリターンが低いわけではない。むしろ現在の金利状況は預金代替手段としての公社債投信の相対的魅力度を高めている。現在の金利水準に合わせた公社債投信の魅力度を高めていく運用上の工夫を行ったり、その魅力度を正確に発信していく努力を資産運用業界は行っていくべきだろう。

公社債投信の商品性を魅力的なものにするには、国債に対して信用スプレッドが上乗せされる社債の役割は極めて大きい。個人から見て国債を直接購入して満期保有するという手段も存在する中、公社債投信は国債を持ち切りにしたときよりも高いリターンを要求されることになる。運用手数料を賄うためにも、国債に比べ利回りが上乗せされる社債を組み入れることで利回り向上を図り、商品の魅力度を高めることが重要になる。

個人向け社債に対抗する商品としての重要性も指摘しておきたい。現在、少数の有名企業が個人向け社債を発行している。そのこと自身が問題ではないが、個人が1つの企業の倒産リスクに晒される状況が果たして良いのかという問題だ。研究会の中でも、投資の専門家から「社債の信用リスクの見極めは極めて難しく、プロフェッショナルでも難易度が高い」との指摘があった。「本来、信用リスクを見極める能力を持った債券運用のプロが、多様な社債に分散投資をした公社債投信を組成し、そのファンドを通じて安定的な信用スプレッドを個人投資家に提供することが健全な市場発展に寄与するのではないか」との指摘が、研究会の中でもあったことを述べておきたい。

(3)公的年金ファンドにおける国内債アクティブファンドの可能性

投信と並んで、社債の大きな受け皿となりうるのは公的年金ファンドである。GPIFや地方公務員共済組合を含む、いわゆる公的年金ファンドの資産残高は2026年3月末で400兆円以上あり、仮に25%が国内債に振り向けられたとすると少なくとも100兆円以上の投資が可能である。

株式と異なり、債券のアクティブ運用のベンチマークに対する超過リターンは相対的に安定しており、アクティブ運用比率が高い。社債投資等による信用リスクを取ることは長期的にはリターン向上に資することが知られており、アクティブ運用において、社債投資を拡大できる余地は大きいと考えられる。例えば、GPIFだけでも運用会社に委託されている国内債アクティブ運用ファンドの残高は2026年3月末で6兆円を越えている。長期投資家である公的年金ファンドが十分な分散投資を行った上で社債投資を行えば、その信用リスクプレミアムを受益者が享受することも可能である。

個人の銀行預金の受け皿として長期的には投信が本命であると思われるが、短期的には100兆円以上の投資資金がある公的年金ファンドの国内債ファンドを通じて、多様な社債投資が行われ、分散化された安定した信用リスクプレミアムが受益者に提供される方が近道だとの見方もあるだろう。

(4)海外投資家の参入

外資系運用会社によれば、海外のアセットオーナーはBBB格以下であっても日本の社債を購入したいニーズがかなりあるとのことだ。日本の金利がかなり上昇したこともあり、日本の社債に投資をすることで自国の債券投資よりも有利な利回りを確保できるケースが発生しているからだと考えられる。日本の機関投資家を当てにするのではなく、海外の投資家にアクセスを持つ運用会社が、彼らのニーズをくみ取って、様々な格付の社債を購入する可能性も高いと考えられる。企業と銀行の関係を理解した運用会社が海外のアセットオーナーの委託を受けて、海外の巨額の資金を運用する道もあるということだろう。

社債市場の発展に向けて課題が多いことは確かだが、国内金利が上昇した今こそ、日本企業と投資家双方が、社債市場を活用することの利点を再認識し、需要供給両面で社債市場を活性化させることが、債券保有者のみならず株主にも最適な財務戦略を通じてより高い株主価値を提供することにつながる。社債市場の発展を考える際、「社債市場」に限った問題と捉える視点は狭すぎる。「企業価値向上」という目的を果たすために、社債市場が果たす役割はますます重要になるはずであり、関係者はそのような視点から、社債市場の発展を後押しすることが重要ではないか。

本稿執筆に当たり、「第6回、第7回資産運用業研究会」での発表者及び委員の方からの発言、意見、資料を参考にし、引用させてもらったことをお断りさせて頂く。なお、本稿で述べた意見・考察は筆者の個人的な見解であり、公益財団法人日本証券経済研究所の公式見解ではない。また、あり得べき誤りはすべて筆者個人に属する。

注釈

  1. 注1 2026年3月末の値。
  2. 注2 同じ発行体(企業など)が発行した複数の無担保社債の間で、利金や償還金の支払順位に有利・不利が生じないようにする特約。
  3. 注3 M&Aや株式譲渡などにより会社の経営権(支配権)が移動した際、取引先がその契約を解除したり、条件の見直しを求められるように定めた契約条項。
  4. 注4 社債管理者とは、社債を発行する企業に代わって、社債を購入した投資家(社債権者)の権利を守り、元本や利息の回収、その他の管理業務を行う機関(銀行や信託銀行など)のこと。元本と利息の管理・回収、財産の保全、社債権者集会の運営などを行う。

(参考文献)

  • 経済産業省経済産業政策局産業資金課、「企業金融の高度化に向けた社債市場の在り方に関する研究会―中間報告書―」、2026年4月20日
  • 経済産業省、「社債発行のガイドブック」、2026年6月10日
  • 経済産業省、「社債活用好事例集」、2026年6月10日
  • 日本銀行、「2026年第1四半期の資金循環(速報)」、2026年6月25日