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2026年6月

プロフェッショナルファームとしての運用会社

堀江貞之(公益財団法人日本証券経済研究所 特任研究員)

(概要)

公益財団法人日本証券経済研究所主催の資産運用業研究会では、米国の大手アクティブ運用専業の運用会社にヒアリングを行い、運用力強化に繋がるヒントを探るべく話を聞いた。

この運用会社の特徴は、プロフェッショナルファームとして、厳格な評価の仕組みの下、運用実績に基づき優れたポートフォリオマネジャー(PM)には高額報酬で遇する一方、成果に応じた見直しが行われるなど、実力重視の人材マネジメントを貫いていることだ。また運用能力の評価は、評価期間を長くしたり投資の良し悪しをできる限り正確に判断するために投資した理由も考慮してフィードバックを行うなど、市場環境要因などによる「運」の要素を取り除く工夫を行っている。PMの意思決定は自らが行い、担当する資金部分は投資の責任を1人で負う。

PMの育成の前提として、優れた人材採用に時間をかける。採用後は、自社の投資プロセスを、周りの多くのPMやアナリストとの議論を通じ、また実際の投資を通じて、投資のスキルを上げていく方法を採用している。人材育成の方法は、伝統芸能の熟練者が弟子を育成するような、マニュアル等の決まったやり方には馴染まないものである。

優れたPMを社内に引き留めるためには、高い報酬だけでは十分ではない。上記の育成プロセスの中、優れたPMやアナリストとの議論を通じ、投資のスキルアップが図れる環境を整えておくことが、社内で投資を継続するためのモチベーション維持に極めて重要である。

運用会社として受託者責任を貫徹するために重要なことは、顧客を第1に考える経営哲学やミッションが、投資部門だけでなく投資を支援する部門にも貫徹されていることであり、そのことが受託者責任を果たす根幹となる。細かなルールや法律に縛られて受託者責任を考えているわけではない。

目次

  1. 1.運用力強化の重要性
  2. 2.優れた運用能力を発揮させるための仕組み
  3. 3.優れた人材を社内に維持するための工夫
  4. 4.運応力強化で残された課題
  5. 5.運用会社としての受託者責任の考え方
  6. 6.運用力強化への道

1.運用力強化の重要性

公益財団法人日本証券経済研究所が2026年1月に立ち上げた「資産運用業研究会(以下、研究会と略)」では5月までに既に5回の研究会を開催した。第1回研究会で、株式運用における海外のポートフォリオマネジャー(以下、PM)の調査及び投資能力の高さを評価する声が上がった。また運用者の人材教育の重要性やグローバル運用会社と日系運用会社のPMの能力格差の存在とその是正の重要性についても複数の委員から指摘があった。投資先企業の価値を正しく評価をした上でポートフォリオを構築する能力の強化なしに資産運用業の発展はありえない、という点で委員の意見は一致している。そこで研究会ではまずグローバルで優れた運用能力を持つ運用会社に投資の仕組み等をヒアリングすることにした。具体的には、第4回研究会で、米国の大手運用会社からヒアリングを行った。

この運用会社は1930年代に創業した、一世紀近い歴史を有するアクティブ運用のみを行っている運用会である。リターンが低迷した時期も経験しつつ、現在までアクティブ運用会社として存続し、高い評価を得ている。王道の企業分析やポートフォリオ分析の能力をどのように構築していくかを学ぶにはうってつけの運用会社だと考え、当研究会での発表をお願いしたものである。

この運用会社は特に上場株式を対象にボトムアップのファンダメンタル分析に強みを持つ。言うまでもなく世界には多様な投資戦略が存在し、この事例が他の投資戦略の強みに繋がるかどうかは定かではない。一方、長期に亘って、アクティブ運用で優れた運用成績を残してきた組織の仕組みには、他社にとって参考になるヒントもあるはずだ。本稿では、株式投資を一例に、投資方法や組織設計等について説明し、運用力強化に繋がるヒントを探っていきたい。

2.優れた運用能力を発揮させるための仕組み

(1)プロフェッショナルファームとしての実力主義

運用組織として特筆すべき点は、「プロフェッショナルファーム」であることだ。運用会社の差別化要因は究極的には運用成績だけであり、「プロフェッショナルファーム」とは、投資の専門知識を持つ多様な専門家が中心となり、優れた運用成績を残すための実力主義が徹底している会社であることを意味する。大手の運用会社は複数の投資戦略を運営しており、各投資戦略の運用成績が運用会社の強さの源泉になる。会社としての特徴は野球やサッカーのようなプロスポーツの世界と対比すると分かりやすいだろう。PMはプロスポーツ選手に相当し、彼らが優れた運用成績を上げるための仕組み作りを運用会社が行い、運用力の高い運用会社を作っていく。

後述するように、1つのファンドを複数のPMやアナリストが分担して運用することもあるが、最終的な投資の意思決定はPMが個人で行い、運用成績は個人ごとに厳格に測定される。自身の意思決定の結果としての運用成績の全責任を個々のPMが負っている。チームとして共同責任を負うような責任の所在が曖昧な仕組みではない。

プロスポーツ選手と同じく、運用成績に基づきPMは評価され、優れた運用成績を上げたPMには高い報酬が支払われる。一方で、運用成績に応じて役割や責任の見直しが行われるなど、成果に基づく人材マネジメントが徹底されている。年功序列等の要素は考慮されず実力主義が徹底される厳しい世界だ。

PMの報酬水準は情報が公開されていないため正確な数値は分からないが、筆者が関係者(注1)にヒアリングしたベースでは、一般的に、海外の運用会社では優れたPMに億単位の報酬が支払われることも多く、場合により10億円を越える場合もある。この運用会社は資産残高が20兆円を越えるアクティブファンドが9本も存在し、高い給与を支払うことの出来る収入プールも大きいのだろう。ちなみに別の米国の運用会社の大学卒の初任給は2025年時点で15万米ドル(約2,300万円)とのことで、優れたPMに高額な報酬を支払うことは優秀な人材確保の観点からも有効だろう。

(2)運用能力を評価する上での工夫

株式投資の場合、投資期間が短いと運用成績(注2)の中に「自らの能力」と投資環境等の「運」の要素が混在するため、評価期間に工夫を施している。評価期間は1年、3年、5年、8年等、複数期間を使い、それぞれの運用成績を重み付けして評価している。また評価期間の内、8年という評価期間の長い運用成績の重みが高いことも特徴だ。

運用成績を評価する上で、「投資をする際に何故その企業に投資をするのか」を詳細にチェックする仕組みがビルトインされている点も重要だ。投資理由を明確にしておくと、投資した後、投資先企業の業績が悪い場合、当初の投資仮説のどこかに問題があったかが分かるからである。また評価期間が短い場合、運用成績が投資環境の特定のファクター等に左右される割合が高まるため、投資理由に遡って投資の良し悪しをフィードバックすることが重要になる。

またこの運用会社は、運用担当者の在籍期間が比較的長く、長期的な視点で人材を育成・評価している。在籍期間が長いこととこのような仕組みを備えることで、各PMの投資仮説の優劣は社内で自ずと明確になり、PMの能力は自然と分かるもので、適性や実力が適切に見極められていく仕組みとなっている。

運用成績を正しく評価するため、PMの能力が成績にどの程度占めるのかを分析するための定量的な要因分解も行われている。例えば、アナリストやPMが彼らの推奨銘柄や構築したポートフォリオがどのファクターに偏っているのかを詳細に分析する他、超過リターンが特定のファクターに起因したものなのか、個別銘柄要因なのかを明確に区分する仕組みがある。またこの運用会社は、単一のファクターへの依存度のみに基づいて評価を行うというよりも、個別銘柄選択に関する判断や投資プロセス全体を踏まえて総合的に評価が行われている点に特徴がある。

運用成績を計測するパフォーマンス評価も厳密に行われている。例えば、この運用会社は1つのファンドを複数のPMやアナリストが運用するユニークな運用方法を60年以上前から採用している。特定のスターPMに頼らず高い確信度に基づきポートフォリオを構築する一方、全体としては分散を図る、長期間継続して優れた運用成績を上げるための仕組みだ。

各PMは自分の投資判断に基づいて売買を行っている。同じファンドの中で、同一銘柄をあるPMが購入し、別のPMが売却するといった真逆の投資判断をすることもある。各PMの運用成績をそれぞれ厳密に計測する仕組みがなければこのような複雑な運用方法は採用できない。能力主義を徹底するには、評価方法や評価システムにも十分な工夫がなされなければならないのである。

ちなみに、1つのファンドを複数のPMが運用するというのは、この運用会社に特有の方法ではない。ロンドンに運用拠点がある何社かの運用会社は1つのファンドを複数のPMが運用する方式を採用している。厳格なパフォーマンス評価の仕組みが備えられている点もこの運用会社と同じだ。

(3)ポートフォリオマネジャー(PM)の育成

まずPMの育成の前に、優秀な人材採用にかなりの時間を割いているのが特徴だ。この運用会社は複数の関係者が多面的な観点から面談を行うプロセスとなっている。多くの人の目を通して、企業文化との相性と、協働者としての適性を厳しく見極めることが目的だ。

優れたPMをどう育成するかは、継続的に超過リターンを獲得するために極めて重要で、以下に述べるような様々な工夫を凝らしている。またこの運用会社は育成方法が徹底しており、大学もしくは大学院卒の学生を採用し長期間かけて育成することが基本である。PMの多数は基本的に社内でアナリストの経験を積んだ人材が担っている。

この運用会社の特徴は企業調査を担当するアナリストも実際のファンドの資金を運用するという点だ。アナリストの責務の一環として、自分で銘柄を選び実際に資金を運用していく。実際に運用することと、ただ単に特定銘柄の推奨を行うことには大きな違いがあると考えており、アナリストは実際に自分で銘柄を選び、その投資判断を基に自分のポートフォリオを作っていく。

この運用会社のPM育成方法には、伝統芸能の熟練者が弟子を育成するようなイメージがある。育成方法がマニュアル化されているわけではなく、日々の他のPMやアナリストとの議論の中で技術を練り、そして実際の投資判断を行い、その結果をフィードバックしていくことでスキルアップを図っていくイメージだ。

新卒を採用して育成するこの運用会社の事例は少し特殊かもしれないが、海外の運用会社の多くは、途中採用した人材でも、いきなりPMに採用することはほとんどなく、アナリスト等の経験を経て、各社の運用プロセスに慣れてもらってから、優れた運用成績を上げた者がPMに昇格するケースがほとんどである。アナリストはいずれPMになることを目指している人が多く、社外からいきなりPM を採用すると彼らのモチベーションを下げることになるので、外部からのPM採用はあまり行っていないのだと推察される。

(4)運用支援の仕組み

前述した運用成績を厳密に計測する仕組みのほか、PMが能力を発揮できるよう様々な仕組みが整えられていることも特徴だ。ポートフォリオのリスク分析はその一例である。

例えばあるPMがベンチマークに対してセクターリスクをあまり取らないようにしたいと思っても、ポートフォリオ構築はボトムアップで1社ずつ売買判断を行うためポートフォリオには偏りが生じるだろう。ボトムアップの投資判断で構成が変化するポートフォリオに対し、定期的にポートフォリオのリスクレポートがファンド毎に示される。各種のファクターやセクターのリスクをどのように取っているのかを分析したり、リーマンショックや原油高騰のようなマクロ的なショックがあった時、ファンドにどのような影響が生じるのか、といったツールが揃っているのである。定期的にデータが更新されるため、それらの分析結果を見ながらファンド構築の際、ファクターの偏りを是正するといった投資行動に繋げることができる。

またPMが投資に集中できる組織的な支援も行われている。どの運用会社でもその名称に多少差はあるが、ポートフォリオの内容を顧客に説明できる立場の担当者が運用部門もしくは営業部門に存在するのが通常で、見込み顧客も含め関心のある人にポートフォリオの説明を行う。PMには投資に専念してもらうため、普段の顧客とのやり取りは彼らに任せているのである。

3.優れた人材を社内に維持するための工夫

前章では、優れた運用能力を発揮するための幾つかの仕組みを見てきたが、これだけでは運用力を長期で維持するには十分ではない。優れたPMはどの運用会社でも貴重な人的資源で高い評価を受けるため、他社から引き抜きを受けるリスクがあるからだ。従って優れた人材を社内に維持するための工夫も優れた運用組織を維持する上で重要だ。その工夫は、前章のPM育成のプロセスから理解できるだろう。

前章で説明したように、この運用会社では他のアナリストやPMとの議論が投資を行う上で極めて重要な要素になるという投資プロセスを構築している。運用担当者間の多様な視点に基づく活発な議論と協働を奨励しており、多角的な議論を通じて投資の確信度を高めている。投資アイデアは様々な観点から精査され、PMがいかに優秀だったとしても、1人だけでは優れた投資が難しい投資プロセスとなっている。

運用者同士の会議では色々な視点で議論が行われている。議論をした結果、意見が全く違い、ある運用者は特定の同じ銘柄を買い、別の運用者は売却をしていることがある。同じ議論の中で、別の投資判断が生まれるという環境は、協働や相互理解を重視し、多様性を認める企業文化に基礎を置くものであり、10年、20年かけて運用者を育てていく投資プロセスが構築されているということだ。

PMは必ずどこかのタイミングで運用成績が振るわない時が来る。投資で失敗をしたとき、どういうことに気付き修正するかが重要になる。この運用会社には30年以上運用しているPMが多数おり、過去に何度か株式市場が急落した際、突然資金流出が始まり自分がその時に何を考えたか、またリーマンショックやAIバブルの時何を考えたかを、他のアナリストやPMに伝えている。市場経験の少ないアナリストやPMはそのような話を聞いて自分で考え投資判断をすることになる。長い運用経験で感じたことを聞く環境は、運用会社の外に出ていくとおそらく得られないものだ。そのような環境にいることがそのPMにとって非常に大きな財産であり、在籍している運用会社を退社しない大きな理由の一つになっていると推察される。

4.運用力強化で残された課題

ここまで投資の特徴を説明したが、実力主義、長期視点を重視した成績評価やPMの育成方法、運用支援の仕組みなど、他社でもヒントになる多くの点が存在することが分かるだろう。ただしこの運用会社には他社とは異なる点も数多く存在し、このような違いは運用力強化にただ1つの方法論があるわけではないことの証左でもある。

この運用会社が他社と大きく異なるのはポートフォリオ構築の考え方だ。前述したように、複数のPMやアナリストが1つのファンドを共同で運用するポートフォリオ構築方法を採用している。チーム運用の形態を採用しているが、一人一人の運用者の投資判断はすべて個々が行うことに特徴がある。その一方、チームとして個々のメンバーの投資判断を全員が理解し共有することで、特定のスター運用者に依存することなく、継続性や再現性を50年以上の長期期間で担保する仕組みである。

担当者がそれぞれ受け持つ資金(通常ファンドの一部分)はそれぞれの投資判断で行うので、1つのファンド全体としてのリスク管理のコントロールは難しい。異なる投資の視点を1つのファンドに組み込み、ファンドとしての多様性を確保し超過リターンの安定性を重視する方法だが、リスク管理の難しさという短所があるわけだ。この両方のバランスをどう図っているのかがこの運用会社の運用ノウハウに繋がり、競争力の源泉になっているのであろう。

またPMの評価方法にも特徴がある。自身の運用成績が評価の中心ではあるものの、他のPMやアナリストの成功への関与も評価される。例えば、株式アナリストやPMが投資先の選定に関与した度合いを評価している。自分の運用成績の評価だけでなく、どのように自分の投資アイデアを他のPMにシェアしたか、それが実際どのぐらい有効だったかを評価しているのである。運用成績を基準にした実力主義であるものの、チームへの貢献も重視する、バランスを考慮した評価方法だと言える。

もう1点、運用力強化とは直接関係ないが、この運用会社のユニークな点は、販売会社において自社ファンドを適切に販売するプロセスを再現するための仕組みを自社内で有していることだ。自社の運用商品の販売現場での再現性を高めることで最終的に投資家の長期的な資産形成に貢献すると考えている。具体的には、米国の販売会社で販売を担当するファイナンシャルアドバイザー(FA)向けのトレーニングプログラムを提供している。この運用会社はFAに関するデータを蓄積・分析し、ベンチマーキングを実施している。つまり優秀なFAとそうでない人の行動や特性の違いをベンチマーキングし、どのような活動をすれば販売者がクオリティの高いFAになることができるかを分析し、それを再現可能にするためのトレーニングを行っているのである。日本でもこの取り組みを4年前から始めており、現在は3名のトレーニング担当者が在籍している。

5.運用会社としての受託者責任の考え方

第1回研究会で複数の委員から、運用会社の受託者責任をどう考えるべきか研究会で議論すべきとの意見が出たので、この点についても質問を行った。この運用会社の考え方は明確だ。ありふれた言い方になるが、顧客を第1に考える経営哲学やミッションが、投資部門だけでなく投資を支援する部門にも貫徹されていることが受託者責任を果たす上での根幹となる。細かなルールや法律に縛られて受託者責任を考えているわけではないということだ。

運用会社のPMが普段対峙するのは、機関投資家の採用担当者や販売会社の担当者で、彼らにアピールすることが重要な仕事になるが、彼らの先にいる年金受給者や個人投資家を思い描いて投資を行うことが受託者責任の根幹をなす。この運用会社は顧客に対する投資行動やサービスの提供において、人々の人生を豊かにすることにつながるかどうかを常に考える、という意義のミッションを掲げているが、これは単なるスローガンではない。ミッションを自社の企業文化として丁寧に時間を掛けて経営者がスタッフに伝えている。PMを含めたスタッフが存在する意義は、その投資の成功で人々の人生をより豊かにすることだという意識を根付かせ投資行動や顧客サービスに繋げることが受託者責任を果たす鍵だということだろう。

この運用会社のよりどころは、どのような市場環境でも、本当に投資家の長期の利益につながるのかという問いに立ち返って行動することだと述べている。その積み重ねが投資アプローチ、企業文化、組織の在り方につながり、受託者責任を果たす上での根幹をなしていると考えられる。

6.運用力強化への道

ここまで優れた運用成績を獲得している運用会社の特徴を説明してきたが、あまり奇をてらった方法はなく、王道のやり方で長い期間を掛け優れた運用成績を積み上げてきたことが分かる。これらの事例からどのような示唆が得られるだろうか。

優れた運用力を保持するには、プロフェッショナルファームとして経営することが不可欠だという点を繰り返し述べておきたい。資産運用会社を含め優れたプロフェッショナルファームのコンサルティングを長年に亘って行ってきたCharles D. Ellisは、その著書の中で優れたプロフェッショナルファームの条件として①ミッション、②優れた企業文化、③優秀な人材の採用、④人材育成、⑤顧客重視、⑥イノベーション、⑦リーダーシップ、の7つを挙げている。どれも言うは易く行うは難しの項目だが、ここまで述べてきたように、この運用会社は、顧客利益を最優先するミッションを持っていること、優れた企業文化、優秀な人材の採用、人材育成、顧客重視といった点が共通しており、愚直に会社としてこの特徴を貫徹するように運営を行っているように思う。年功序列やグループ企業内での処遇を気にするといった、日本的な経営アプローチを採用している限り、このようなプロフェッショナルファームへの脱皮は不可能と思われる。

既にPMに対して、他の部署とは異なる処遇をしている日系運用会社も増えているが、給与水準を上げるだけでは十分ではないことは明らかだ。実際の投資を通じて投資スキルは上がっていく。しかも投資の成功確率はあまり高くはなく、失敗から学ぶこと、また他の運用者と議論することでスキルの上昇が図れるという性格を持っている。飛び抜けた投資能力を持つ運用者を1人育てただけでは十分ではなく、投資視点の異なる優れた運用者集団を作ることで、運用者間の活発な議論が生まれ、優れた運用力を長期に亘って維持できることになる。富士山型ではなく高い嶺嶺が屹立するような日本アルプス型で、何人もの優れた運用者が切磋琢磨する投資組織を作ることが優れた運用者を社内に引き留めておく上でも重要だ。

この運用会社へのヒアリングを通じて明らかになったことは、運用力強化には、プロフェッショナルファームとしての基本要件を満たすことが最低限の条件になるということだ。そのためには、上記の仕組みを構築することが不可欠だが、その能力維持を長期に亘って行うには、顧客への投資成果を第一に考える企業文化を醸成し、それを文字通り実行する投資プロセスや支援体制を構築することが欠かせない。当たり前のように思われるかもしれないが、グローバル株式を含む、海外顧客にも訴求力のある投資商品を提供するには、この王道を行くしか手立てはないことをこの運用会社の事例が教えてくれているのではないか。

本稿執筆に当たり、「資産運用業研究会」での発表者及び委員の方からの発言や意見を参考にし、引用させてもらったことをお断りさせて頂く。なお、本稿で述べた意見・考察は筆者の個人的な見解であり、公益財団法人日本証券経済研究所の公式見解ではない。また、あり得べき誤りはすべて筆者個人に属する。

注釈

  1. (注1)運用会社の人材紹介を行うコンサルティング会社や運用会社の経営者等。
  2. (注2)通常はベンチマークからの超過リターンで測定する。

(参考文献)

  • 堀江貞之、「『資産運用業研究会』の発足」、日本証券経済研究所、2026年2月
  • 堀江貞之、「求められるアセットマネジャーの高度化~運用力・顧客リレーション力・ガバナンスの強化に必要なこと~」、証券アナリストジャーナル、2025年5月号
  • Charles D. Ellis、「What It Takes – Seven Secrets of Success from the World’s Greatest Professional Firms」、John Wiley & Sons、2013年